
スーパーモデル トリッシュ・ゴフ、不動産起業家への華麗なる変身
“変身し続ける100年キャリア”の人生図鑑
1990年代に活躍したスーパーモデルのトリッシュ・ゴフ(Trish Goff)さん。十代でモデルデビュー、「ボブ」スタイルのショートカットで世界に衝撃を与え、世界のファッション界のトップレベルで活躍しました。今、アメリカ・ニューヨークの高級不動産を扱う起業家として活躍しているのをご存知でしょうか?
なぜモデルから、不動産業への転身を成功させることができたのでしょうか? 最後にキャリアデザイン理論から解き明かしてみました。新シリーズ「“変身し続ける100年キャリア”の人生図鑑」の第一回、お読みください。
スーパーモデルの世界
化粧品・香水など世界的ブランドのイメージを映し出すのが「スーパーモデル」です。大胆な広告投資を行う世界トップブランドの契約規模は大きく、経済誌『フォーブス』2018年版「世界で最も稼いだモデル」ランキングによれば、年間契約1000万ドル(1ドル110円で11億円)を6名のモデルが超えました。
- ケンダル・ジェンナー: 2250万ドル(約25億円)
(エスティローダー、アディダス、カルバン・クラインなど) - カーリー・クロス: 1300万ドル(約14億円)
(スワロフスキー、アディダス、エスティローダーなど) - クリッシー・テイゲン: 1150万ドル(約13億円)
(自身の調理器具ブランド、料理本の出版、テレビ番組司会も) - ロージー・ハンティントン=ホワイトリー: 1150万ドル(約13億円)
(英小売大手マークス&スペンサーでの自社製品、美容サイト「Rose Inc.」立ち上げ) - ジゼル・ブンチェン: 1000万ドル(約11億円)
- カーラ・デルヴィーニュ: 1000万ドル(約11億円)
世界的スーパーモデル、トリッシュ・ゴフ
スーパーモデルという概念は1990年代に普及しました。その頃のスターの一人がトリッシュさんです。1976年生まれの現在42歳。アメリカ南フロリダ生まれのピッツバーグ育ちで、両親の離婚や転居などが続く子供時代を経て、15歳でスカウトされ17歳頃から世界トップモデルになりました。
「ボブ」と呼ばれるショートヘアで知られ、シャネル、ディオール、ヴェルサーチなど著名ブランドでのキャンペーンや一流ファッション誌カバー登場など、一流の証である華々しい活動が続きます。20歳で出産のため一時休止した後にすぐにモデル復帰。子連れで仕事現場に行くワーキングママとしても注目を集めました。
不動産ビジネスへの転身
7歳の頃には既に不動産に興味があったトリッシュさんは、デビューし自らおカネを稼ぐようになると、19歳で初めての不動産を購入します。マンハッタンの98坪の物件を50万ドルで購入し、リフォームして、後に3倍で売れたそうです。
アメリカで高額を稼ぐセレブの中には、散財が過ぎて自己破産する人もちらほらいるようですが、トッリッシュさんは一見華やかな活躍の裏で優良不動産に堅実に投資し、セカンドキャリアに備えていたのですね。
トリッシュさんは後に離婚し、故郷フロリダに戻ります。モデルという派手な仕事は子供のためにならない、とモデル業を最小限に減らして不動産業界で働くことを決意、ニューヨーク大学へ入学し36歳で宅地建物取引士の資格を取得します。
(参考記事:VOGUE Model Search
サイゾーウーマン:[連載]ハリウッド版「あの人は今!?」ボブスタイルで一世を風靡したトリッシュ・ゴフ、今は不動産仲介業者に!2013.05.30)
新人トップセールスへ、そして起業へ
大手不動産会社ダグラス・エリマン社に就職すると、1年目にいきなり新人トップセールスを記録し、数年後に独立します。
(ちなみにこのあたりからウィキペディアにも載っていません。ダグラス・エリマン社は辞めており、現住所はチェルシーではなくグリニッジ・ヴィレッジです。 ※2019.2.15時点)
数億円の物件がズラリ!
設立した The Urbane Properties Team という会社は、共同経営者はトリッシュ含め2名、プラス有資格者2名の小さな仲介会社のようです。
インスタグラムには、驚くほどオシャレな会議風景などが掲載されています。
小さな会社でも、その売上、ハンパないです。フェイスブックページには、2018年5月に「週の契約計1400万ドル超え」との投稿もありました。
不動産サイトのトリッシュのページ(英語)には販売実績(Trish Goff’s Recent Transactions → Recent Sales)が掲載されており、7ケタ以上の数字=億円単位の物件がズラリと並び、ニューヨークの好況ぶりがよくわかります。
55平米・築30年・管理費+税金=月14万円で1億円超!
現在取扱中の物件(Trish Goff’s Listings)で最も安いのが95万ドルの物件です。(2019.2.15時点)595フィート=55平米、2部屋のコンドミニアム。さらに税金655+管理共益費(Common Charges)597ドルと月14万円ほどの経費が上乗せされます。しかも築30年。これで1億円超えです。
このように、世界の主要都市の不動産価格は高く、たとえばロンドンではオリンピック終了後も上昇傾向が続いています。東京都心も大きく上昇していますが、海外都市と比較すれば割安であるという背景もあるようです。
「獲得した資本を転換する」ということ
とても華やかなスーパーモデルの転身ですよね。
この半生を、キャリアデザイン理論で分析してみましょう。
“100年人生の新常識” シリーズ連載「“変身し続ける100年キャリア”の設計図 by 田中研之輔」では、
「獲得した資本」を「別の資本」に転換しながら、トータルの資本を増やすのがキャリアの設計です
との考え方を、最新キャリア論で注目される田中研之輔教授(法政大学)に説明いただきました。
従来の「学歴資本→組織への所属」という1本レール型の人生設計から、「文化資本」「社会的資本」「経済資本」を柔軟に組み合わせる複線レール型へと発想を切り替えることが、100年人生への備えとなります。
この考え方にあてはめると、
- スーパーモデルとして獲得したおカネという「経済資本」を、
- 不動産という別種の「経済資本」に転換しながら、
- 子育てを機に「エクスプローラー」の時期に入り、
(リンダ・グラットン著『ライフシフト ― 百年時代の人生戦略』での考え方) - 「学歴資本」を30代半ばに獲得し、
- モデルとして獲得した美的センスなどの「文化資本」、抜群の知名度「社会的資本」も活かして、販売実績=新たな「経済資本」を作り、
- 起業し「インディペンデント・プロデューサー」として、自分らしい生き方を完成させる。
と整理できるでしょう。
今、日本社会では「女性活躍推進」が大きなテーマになっています。トリッシュさんの転身は華やかですが、自分の好きなものを堅実に追いかけ、達成していく「自分らしさ」にこだわった結果でもあります。日本の女性たちにも、何かの参考になるのではないでしょうか。
シリーズ「“変身し続ける100年キャリア”の人生図鑑」は不定期連載です。