書評『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい 会計編』by 三戸政和

書評『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい 会計編』by 三戸政和

2018年9月にお話いただいた三戸政和さんが新刊を出版されました。「これから中小企業を買ってみたい、会計知識のない人」に向けて書かれた本です。

この明確なゴールの存在が、他の(退屈な)会計本と大きく違う個性です。一部のエリートサラリーマンに向けてではなく、ごく普通の中小企業の社長さんの視点に絞っているので、ストーリー性をもって理解できるのです。
といっても、

ちょうど会社買いたかったんだよねー!
グッドタイミング!
という方は多分そんなに多くはなくて、あなたはきっと、
おおげさな、会社なんて買わないし!
だいたい会計なんて退屈だし!
とお思いのことでしょう。

それでも読むことをオススメできる理由が幾つかあると思いました。以下、ウェルビーイング・ラボ編集部ハッタから主に会計初心者のために説明していきましょう。

会計を理解するとよい理由

ビジネスとは、最終的にはおカネによって表現されます。会計は、会社のおカネを評価するための世界共通のモノサシです。会計を知らずにビジネスをするのは、モノサシを持たずに目の前にあるものを「すごく大きい、ちょっと大きい」と言っているようなもの、全体像を見ずに与えられた作業だけこなしているようなものです。

そして人生も、ある面では「自分という会社」を経営するビジネスです。年収、費用、貯蓄、マイホーム・・・とおカネの問題は、幸福=ウェルビーイングと直結しますよね。

だから「会計の基本」は理解しておくべきです。そのためには、この本の半分くらいを理解できれば良いでしょう。残りの半分くらいは、自ら行動してみる中でだんだんと理解できていくことでしょう。

マンションのように中小企業を買う?

本では、会社を買うことをマンションに例えています。マンションは普通は数千万円、一生モノの高額商品ですが、実際には数百万円で買える会社も多数あるよと、前作『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』で説明されていました。

それでも多くの日本人がマンションを買い、会社は買わない理由を三戸さんが本作の冒頭で説明します。マンションを買う理由を編集部なりに整理すると、

  • 社会の価値観: マンションを買うことは普通の事だという世の中の価値観があり
  • ロールモデル: 身の周りにもマンションを買っている人がリアルにいて
  • 意識の壁: 買う人にとって最初の心理的抵抗感が存在しない

会社を買うことにはまず「意識の壁」が大きいです。

  1. 300万円で買えるまともな会社があるはずがない
  2. 会社の選び方が分からない(ヤバい会社をつかんでしまいそう)

のような疑問や不安です。
両者の差は何か?と私なりに考えると、

  • どれだけ大きなチャレンジでも
  • 問題を分解して
  • 1つ1つ行動していけば
  • 実現可能である

ということではないでしょうか。

数千万円のマンションの買い方が始めから分かっている人も、今すぐ買えるおカネを持っている人も普通いません。でも、資料を取り寄せて現地に足を運び、営業マンに教えてもらいながら銀行でローンを組むことで買えるようになります。
しかし中小企業の買収に、これまではこうした階段は用意されていなかった。そこでそのための情報や場を提供しているのが、三戸さんなのです。

なぜ会社の値段は「利益の3−5年分」なのか

こんな話が丁寧にされているのが、この本のユニークなところです。

会社に限らずモノの値段は「本来の価値」+「稼ぐ力」で決まります。
中小企業の値段なら、

  • 本来の価値 =「純資産」(貸借対照表=バランスシート)の項目)
  • 稼ぐ力 =「営業利益」の3年〜5年分(損益計算書=PLの項目)

であることが多いようです。つまり100万円相当の設備その他の資産価値があり、営業利益が100万円の会社なら、400万円〜600万円で売り買いされます。

純資産が含まれるのは当然ですよね。では、なぜ営業利益のカウント対象が3年〜5年分なのか?
それは経営者がリスクの高い意思決定をする際、「投資が3〜5年で回収できそうならGo!」という相場観があるためです。裏を返せば、事業の賞味期限は10年もない、と言えます。それでも会社が10年以上続くのは、事業内容を少しずつ変えながら生き残っているからです。
そこで事業の買い手は

  • 自分がよく知っている分野、成功確率が高そうな事業なら利益の5年分で高く買う
  • よく知らない、リスクが高そうな事業は3年分で安く買う

という行動を取ります。

銀行の視点

このことを銀行融資の実務レベルから説明しているのも、この本のユニークなところです。

営業利益が出れば、まず3割の税金を払い、残り7割が返済の原資になります(それが損益計算書の仕組み)。営業利益3年分の値段で会社を借金して買った場合、3年を0.7で割った4.2年をかけて借金返済することになります。実際の返済期間は少し余裕をもたせて、5年〜7年で設定されます。その期間を超えても利益を出し続けていれば、その分が自分の儲けになるというわけです。

一方で上場企業の株式では、営業利益の何十年分という値段がつくことが普通にあります。中小企業がせいぜい5年分であるのと比較して、それだけ上場企業のビジネスは安定していてリスクが低いということです。

逆にいえば、仮に有名企業と同じくらい安定した経営ができるのなら、利益3年分で買って、利益15年分で売る、という稼ぎ方もできるわけですね。

今まで知らなかった世界がリアルに見えてくるのではないでしょうか。こうしたことが理解できるのは、中小企業経営者の視点で書かれた本だからです。経営者、あるいは「資本家」と呼ばれる人たちがどのような世界を生きているのか、生々しく見えてくるのではないでしょうか。

資本家は「他人に喜んでもらって」稼ぐ

三戸さんの発想のコアは、2018年9月ウェルビーイング・ラボ講演録での「4. 資本家の稼ぎ方」の部分であると思います。

資本家といっても色々ですが、三戸さんらしいな、と私が感じたのは、損益計算書( PL)を社会貢献という視点から説明した91ページの表です。


※『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい 会計編 (講談社+α新書) 』
第1章 最低限これだけは知っておきたい会計知識 より

  • 売上高 : お客さんに満足してもらって得るもの
  • 人件費 : お客さんのために従業員に働いてもらって、その対価を払って、喜んでもらうもの
  • 税金  : 公共のインフラを使うので、そのお返しに国家国民に喜んでもらうもの
  • 最終利益: お客さんに満足してもらった売上から、関係各者に支払って喜んでもらった分をひいて、最後に残った自分のもの

つまり資本家とは、みんなに喜んでもらって、最後の残りを自分でいただく存在であるわけです。そして儲けるとは、関係者全てを幸せにする行為である、ということになりますね。

資本家は 「バランスシート」で稼ぐ

資本家の発想のもう1つは、「価値を生み出すもの」を獲得し、価値を上げていくことです。

ベンチャー企業などに出資するリスクマネーでは、出資額の10%くらいを配当として返すことが期待されるのに対して、低金利の今、中小企業への貸付金利は2%くらい。
この8%の金利差は複利効果によって拡大し、3年後には5倍を超える返済金額(配当金額)の差になります。

つまり「返せるのであれば、出資よりも借金したほうがオトクである」のが低金利時代です。低金利でお金を借りることができるのは、その人に「信用」があるためです。信用とは現代経済における最重要な無形の資産であり、それを活用して質の良いバランスシートを育てあげます。日本人には「借金して事業をするのは良くないこと」という印象が強いようですが、必ずしも合理的ではないのです。

不安は可視化する

本の第4章「賢い会社の買い方」では、講演の「5. リスクとの向き合い方」の内容が具体的に説明されます。

企業買収リスクとして多く指摘されるのは「簿外債務」です。
例えば金融機関が巨額の損失補填契約をしていた、製品の設計ミスが発覚し巨額のリコールや損害賠償が発生した、といったニュースが世間を賑わすことがありますよね。しかし、個人M&Aで買うような中小企業では現実に起きるのは限られますよ、とこの本は説明します。

  • 将来予想される退職金が引当られていない
  • 未払い残業代がある
  • 社会保険に加入していない
  • 会社が他社に連帯保証をしている
  • リスクの高い投資商品を抱えている

など、具体的にリストアップ可能なので事前に調査しておく(デューデリジェンス)。
それでも後から問題が出てきたら、最悪会社を倒産させればチャラになるのが有限責任という資本主義の仕組みです。

ぼんやりとした不安がある時には、具体的に挙げて可視化することで判断しやすくなるものですね。

書評まとめ:時代は変わる

三戸さんに「サラリーマンのための個人M&A入門」を講演頂いた昨年9月は、ちょうどオンラインサロンが募集開始して1ヶ月程でした。数ヶ月経った今(3月12日時点)、有料メンバーは153名。300万円でサラリーマンが企業買収という一見驚きのアイデアですが、累計17万部が売れ、その読者のうち月額1万円を払うという行動へと、1000人に1人が踏み出した計算です。そこからの買収実績も出始めました。

今後10年間で126万社もの中小企業が廃業(もしくは事業承継)という大きな流れの中で、時代とは変わるときは一気に変わるものです。

セミナー当日、私が感じた三戸さんは、

三戸
面白いから、すごいことだから、行動する!
というシンプルな快楽主義者、行動主義者なのだということです。そんな三戸さんらしさを軸に、ビジネスの基本を理解できる一冊だと思います。

不動産経営に応用すると

さて私は、会社の値付けの仕組みは、マンションなど不動産の大家さんにも共通すると思いました。

  • 本来の価値 = 購入価格 ― ローンの残額
  • 稼ぐ力 = 家賃収入 ― コスト(管理費や修繕費)

購入価格は、当初は家賃収入も反映して決まっています。高い賃料を取れる有料物件が高額になるのは、
スーパーモデル トリッシュ・ゴフ、不動産起業家への華麗なる変身」2019.02.20
で取り上げたニューヨークのマンション価格からもよくわかりますね。

ただし、家賃は時間が経てば変わっていきます。

  • 例えば浦安周辺の家賃は、ディズニーランドができて上がり地震で液状化して下がってしまった(自力ではどうにもならない事情) 
  • 古い物件をリフォーム・リノベーションして、家賃収入を上げた(自らの経営努力)

後者は理想的ですが、周囲のお部屋よりも高い家賃を取りかつ家賃上昇分よりもコストを抑えることが必須条件です。そのためには、

  • 住まいづくりについてセンスが高い
  • リフォーム業者の選定、監督するマネジメント力が高い
  • もしくは、自力で壁紙を綺麗に張り替えたり、ちょっとした修繕・工事ができる
  • こうしたことに、頭と体を惜しみなく使える十分なモチベーションがある

などが必要ですよね。ようするに、立派な不動産ビジネスの経営といえます。

「稼ぐ力」を高める

このように、中古不動産経営力を活かして成功される方は多数います。「副業サラリーマン」として注目され、その収入や資産に憧れる方ははるかに多いことでしょう。ただ忘れてはいけないのは、その裏には相応のスキルと行動があるということでしょう。

それ以外の別の分野にスキルやモチベーションがあるのなら、中古不動産ではなくその分野の会社を中古で買って経営するアイデアを、三戸さんの本から得ることができますよね。安く買ったビジネスを低コストでリフォームし高値で売るわけです。

一方で、稼ぐ力は今の本業の仕事に集中させたい方も多いことでしょう。
この場合1つの選択肢は、

  • 稼ぐ力 = 取得価格 ― コスト

が安定している、放っておいても下がりにくいものに投資する、ということです。

関心のある方は、こちら「講師の選べる不動産投資セミナー」をご覧ください。