100年人生の教育投資(田中研之輔 法政大学教授)
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100年人生の教育投資(田中研之輔 法政大学教授)

ウェルビーイング・ラボ セミナー開催報告

「教育投資のレバレッジ術」 ~学費を”掛け算”で取り戻す親の心得~

講師:田中研之輔(法政大学キャリアデザイン学部教授)
2018.7.14 東京・渋谷メイクスカンファレンスルーム

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人生後半での自己決定によって幸福格差が拡大する人生100年時代に、「有名大学→大手企業」という成功パターンの効力も低下してゆくでしょう。新たな時代に、キャリアをどう設計し、どのような教育で備えればいいのか?

当セミナーでお迎えした田中研之輔教授は、大学の学び・就活・卒業後のキャリアを実践的に結ぶ教育メソッドにより、法政大学ベストティーチャー賞を受賞された人気教授の一人です。指導するゼミでは10年間で約150名の出身者を第一志望企業群の内定へ導いてきました。現代キャリア論と実践的教育法との最先端の事例を4連載にてご紹介します。

第一回は、教育投資のタイミング、そして非認知能力がテーマです。

第1回:「幼児教育はコスパが高い説」の真実

「人生100年時代の働き方」に関心が高まっています。今からお伝えするのは、その教育を通じたキャリア構築の考え方です。世界最先端のキャリア研究の成果を踏まえ、まだ日本で誰も伝えていない内容をお話します。

第一回目は、「教育投資の効果」についてです。

教育費とは「投資」です。人生全体にわたり価値を生み続けてくれるものです。払ったら終わりの「消費」ではありません。多くの日本人にとっては、これまでのキャリア形成は「貯蓄型」だったといえます。努力した分がそのまま積み上がって幸福な人生を実現する。でもこれからは「投資型」のキャリア形成がより重要になっていくでしょう。

では、どこに集中して投資することが、最も高いリターンを得ることができるのか? まず教育投資のタイミングから理解しましょう。

教育効果が高い時期

質問です。あなたが「500万円を、自分の人生のどこかの時期、教育に集中投資する」とします。

  1. 就学前
  2. 就学時
  3. 就職後

田中教授
この中のどこにお金を使うでしょうか?

1.「就学前」だと思う人は? 2人くらい。なぜだと思いますか?

A さん
素直で、一番浸透しやすいと思うから。今はもう生意気になっちゃって、言うこと聞かないんです(笑)

田中教授
2.「就学時」だと思う人は? 多いですね。理由は?

B さん
お金をかける選択肢が多いから

田中教授
3.「就職後」だと思う人は? 何人かいますね。

C さん
自分でお金を払って、自分自身にかかってくるので、真剣に学ぶから

田中教授
正解を知ってる人はいますか?

D さん
1.の「就学前」だとされてますが、実は問題があって・・・。

田中教授
あ、理由言っちゃだめ!(会場笑)

正解は、1の「就学前」だと言われることが多いです。

幼児教育の効果

そう言われているのは、ノーベル経済学賞をとった教育経済学者のへックマンが2015年に出した『幼児教育の経済学』という本のせいです。この研究は、40年かけて実際の人生を多数たどりながら、幼児教育の効果を検証しました。3歳ぐらいでしっかりと教育を受けた人、受けなかった人、それぞれ40年後に再調査して、人生にどんな差が出たのかを調べています。すごいですよね。

それでわかったことの1つが

幼児教育にお金をかけられた子供は40歳までに逮捕歴が少ない

ということです。でも普通の人、逮捕されないじゃないですか。(会場笑)

貧富の差が激しいアメリカだからこうなる、という極端な話が多いんですね。

ただ、その結論だけが強調されて、「幼児教育にお金をかけるといいですよ」という結論だけが広まりました。幼児教育ビジネスにとっては都合が良いのですが、日本ではこうはならないでしょうね。

ただ僕の考えとしては、ヘックマンは極端な面はあるとしても、不透明になりがちな教育投資の効果を、部分的にも明らかにしてくれました。大事なのは、わかっている成果を活かして、わかっていないことを自分なりに考えてゆくことです。

幼児教育のポイント1 「文化資本」

幼児教育のポイントについての研究成果をもう少し見ていきましょう。今度は日本での調査結果です。

「子供が小さい頃の体験」と「小学校・中学校の国語・算数の点数」との関係を調査した結果、

  • 絵本の読み聞かせをすると、点数が高い
  • 美術館・博物館に行っても、点数が高い
  • テレビのワイドショーやバラエティ番組を見ていると、点数が低い

(ベネッセ「教育格差の発生・解消に関する調査研究報告書 2007年~2008年」

などが挙げられています。これらは就学前の家庭環境から育つ資質で、「文化資本」と呼びます。

家庭の文化資本を高めることで、就学後の教育効果が高まるのです。

幼児教育のポイント2 「非認知的能力」

もう一度ヘックマン教授に戻ります。幼児教育への投資には2つのポイントがあります。

第一に、

就学前教育は、その後の人生に大きな影響を与える

日本でいう「三つ子の魂百まで」のような話ですね。

第二に、

就学前に重要なのは、 IQ に代表される認知能力だけではなく、忍耐力・協調性・計画力といった非認知能力

だということ。忍耐も協調もテストの点数で測れるような能力ではないので、「非認知の能力」と言われてます。

忍耐力を高めるとは、例えばヘックマンは、子供が「牛乳飲みたい」と言っても牛乳飲ませないんです。代わりに、牛乳を友達に分けてあげなさいと。きつくないですか? ヘックマン先生ちょっとおかしいでしょ?(笑) あるいは、朝から1日のプランニングをさせなさいと言う。これは日本でもやってる幼稚園とかあります。

「非認知能力」を中学・高校・大学で鍛える

この非認知能力は一生有効です。僕の仮説は、これらを、中学高校、そして大学の教育に持ち込むということです。

大学の「キャリア教育」といわれる取り組みは、こうした要素に注目したものが多いです。しかし、単に成功者の話を聞いたり、それを浅くなぞらせたり、効果が期待できないものも少なからずあります。

その結果できあがる残念な学生の1パターンが、中途半端なマニュアルのコピーに陥った就活生です。私は人気企業の新卒採用担当者ともよく話すのですが、よく聞く話です。採用のプロからはひと目で見抜かれるものを、一生懸命に作り上げようとして、それに気づいていないのですね。

大学生活の大きな特徴の1つは、受験までとはゲームのルールが大きく変わるということです。受験のように正解があるつもりでいると、残念な結果が待っています。そこで、

  • これから時代はどう変わっていくのか?
  • その中で、非認知的能力はなぜ重要なのか?
  • 特に重要なのは?
  • どう伸ばすのか? 

を仕組みから理解してゆく必要があるのです。

そのポイントがわかれば、教育投資に「レバレッジ」をかけることができます。レバレッジとは「てこ」。少ない力で大きな物を動かすための仕組みです。仕組みを明確にして集中的にリソースを投入することで、成果を何倍にもするチャンスが拓けます。

(続く)