就職後のために学生が増やすべき「資本」とは(田中研之輔 Vol.3)
カネ

就職後のために学生が増やすべき「資本」とは(田中研之輔 Vol.3)

ウェルビーイング・ラボ セミナー開催報告

「教育投資のレバレッジ術」 ~学費を”掛け算”で取り戻す親の心得~

講師:田中研之輔(法政大学キャリアデザイン学部教授)
2018.7.14 東京・渋谷メイクスカンファレンスルーム

・・・

経団連は大手企業の採用面接解禁日などを決めた「採用選考に関する指針」を廃止することを109日に正式決定しました。「学業か就活か」という賛否両論が渦巻く中、田中教授による「両方必要」という論が注目されています(就活で学業がおろそかになるはデタラメ」プレジデントオンライン10.29.など)。田中教授がそう言うのは、自ら「学業と就活とを両立させる教育手法」を実践しているからこそ。「キャリア資本」についての理論がその背景にあります。
連載第三回のテーマは、大学での学びの本質に入ります。

人生における「資本」の流れ

100年時代の人生では、自分自身を「アップデート」し続けることが大事です。それは自分自身を「資本」、成果を生み出す元手としてとらえていくということです。人生における「資本」にはさまざまあって、時間の流れに沿って分類してみましょう。

主にアメリカ発のキャリア理論では、こう考えます。

親は子供に「教育投資」をし

子が「学歴資本」を獲得し

仕事を始めて「文化資本」「社会関係資本」「経済資本」を獲得し

「キャリア資本」ができる

田中研之輔_資本

「文化資本」とは、個人の中での幅広い学びのことです。仕事に必要なスキルはそれぞれあるでしょうが、実際に仕事をするには、幅広い考え方、振る舞い方などの方が重要なことが多いと思います。これは幼少期の家庭教育から始まって、最終的には、その仕事に必要な文化資本として蓄えられていきます。

「学歴資本」もその一つです。よくあるイメージでは、学歴とは「卒業校のブランド名」とイコールで受け取られがちですが、実際には、その学校の環境や人間関係など、幅広いものから影響を受けますよね。そこで大きな分類では文化資本の一部として位置づけられています。

「社会関係資本」とは、人とのつながりです。仕事をしてできてゆく人脈はその1つですし、「彼/彼女は信頼して仕事を任せられる」という周囲からの評判もそうですね。

仕事を通じて成長する、とは、つまりはこの2つの資本を蓄積してゆくということです。こうしておカネを稼ぎ続ければ「経済資本」が増えていきます。

この3つ、文化資本(個人的能力)・社会関係資本(つながり)・経済資本(お金)の組み合わせが、最終的に残る「キャリア資本」です。

従来の日本では、もう少し単純な仕組みです。

「教育投資」により「学歴資本」を獲得し、

新卒就職するといきなり「キャリア資本」が手に入る


日本人のキャリア設計は、「会社に入ったらあとは会社におまかせ」というものが多いですね。これには、労働慣行や法律が後押ししています。そこで、「アメリカのキャリア理論は日本では使えない」という声を聞きます。当たっている面もありますが、アメリカは日本より先にキャリアの変化が進んでいるので、アメリカのキャリア研究から日本の働き方の将来像を予測できる面もあります。だんだんと、それだけでは通用しにくくなってゆくでしょう。

最もレバレッジの効く資本

これらキャリア関連の資本の中で、最もリターンが大きいものは何でしょうか?
「社会関係資本」を重視する考え方が有力です。人とのつながりはほぼ無限に拡大できるので、レバレッジ効果が生まれ、リターンも無限に拡大できるのですね。
細かくは全部で8個くらいに分類できます。

  1.  ネットワーク (Networks)
  2.  信頼の感情 (Feelings of Trust and Safety)
  3.  互酬性 (Reciprocity)
  4.  参加の姿勢 (Participation)
  5.  積極性・行動力 (Citizen Power / Proactively)
  6.  価値・規範・人生の見通し (Values, Norms, Outlook in Life)
  7.  多様性 (Diversity)
  8.  帰属意識 (sense of belonging)

    田中_社会関係資本

覚える必要ありません。全部きっちりとやる必要もありません。自分の感覚で、わかる、できる、と思えるものから実行していけば OK です。幾つか解説しましょう。

帰属意識: 今いる場所のつながりを生かすことです。法政大学に所属しているのなら、そのつながりを活かすということです。

互酬性: 「自分だけ得しよう」とする人はダメです。実際に私が目にするのは、例えば学生がインターンシップに行った時に、その経験を自分一人のものにしてしまうことはよくあります。「私インターシップに行きました、上手くいきました」で終わってしまう。このタイプは伸びません。でも周囲の学生に経験を伝えていこうとする学生は伸びます。その違いは実際、大きいです。

信頼の感情: 人とのつながりのベースにあるのが、信頼感ではないでしょうか。他人を適切に信頼できる人は長期的に成功しやすいです。人って、自分のことを信頼してくれる相手と一緒に仕事したいじゃないですか。そうして一緒に成功してゆけるからです。

ネットワーク: 英語では”Bonding / Bridging”と説明されています。単に自分と周りとのつながりを作るだけではなく、人と人とつなぐ、異なるネットワーク間をつなぐ、遠い世界とのつながりを作る、そういった行動です。遠い世界との相手とのつながりは、「弱いつながり」(弱い紐帯)と呼ばれます。転職先などメリットの大きな情報は、社会的つながりが弱い人から入って来がち、というスタンフォード大学の社会学者グラノヴェッター教授の研究が有名です。

日本の大学生の課題

今の受験教育は、自分一人ががんばることで成功する仕組みです。合格者の枠が決まっていて、その中で点数争いをするので、ライバルを押しのけるような形になります。

しかし現実の社会はそうではありません。仲間のために経験を共有して、行動して、一緒に成功することの方が普通ですよね。学生のうちからそんな行動ができるタイプのほうが、就活がうまくいくし、就職後もうまくいくんです。だから大学に入ったら、まず価値観を切り替える必要があります。

ただ、仲間という時、大学生はどうしても近い人間同士で繋がろうとします。でもそれでは不十分で、より遠い世界に向かってブリッジをかけていく態度が欲しいです。趣味が違う相手、他の大学、離れた年齢層などです。これは当然、就活でも見られます。会社に入ってからはもっと大事になりますね。友達同士だけで完結する仕事はありません。

田中_大学での様子

私が大学で教えていること

私が大学で行っていることは、もっぱらこの社会関係資本を増やすことです。これまで10年間、そのための仕組みづくりを続けてきました。

例えば法政の講義やゼミでも、色々な企業の人を選んで、呼んでお話いただく。お客さんとして聞くのではなく、人選、コンタクト段階から、当日の運営まで学生に任せる。こうすることで、計画力・協調力・忍耐力といった非認知能力を同時に鍛えます。優しくて話のうまいゲストさんは好評価を得やすいのですが、それだけでは不十分です。圧迫系の人も混ぜてストレスを与える経験も、後から効いてきます。すぐには効果は出ませんが、続けることで結果は出てきています。

これは企業の人が講義に来てくれなくても自分でできることです。インターンシップ先とか、あらゆるところで自分でできることです。全ての機会を「社会関係資本を増やすゲームやドリル」ととらえて、積み重ねていけばいいのです。こうして、多様な人と会えるような場に自分の身を置くことが、環境変化にタフな社会人を作っていきます。そしてプロティアンキャリア=変わり続けてゆくしなやかな仕事人生を作っていきます。

これまで10年間で、私のゼミ生150人ぐらい。卒業後のキャリアをみていると、社会関係資本を伸ばした卒業生は 3年後から10年後ぐらいにかけて一気に伸びていきます。年齢では20代後半から30代前半ぐらいにかけて。私が実際見てきたのがこの10年間なので、ここから先が楽しみです。

こうした経験を踏まえ、就活のテクニック的な側面から書いたのが、この7月に出した『先生は教えてくれない就活のトリセツ』です。

このことは大学生に限りません。早いうちから「社会関係資本」を得ることができる機会を用意してあげる。それが「てこ」になって「文化資本」を増やし、「経済資本」へとつながってゆく。それら全てが「キャリア資本」となって、100年時代を生きてゆく武器になるのです。

(続く)

・・・

第4回掲載は11/16()の予定です。

◆変更履歴:記事タイトルを一部修正しました。(2018年11月5日)
私たちの考える就活のあるべき姿とは、「内定獲得」ではなく、「100年時代のライフキャリアを正しく築くこと」にあります。この点の誤解を防ぐために記事タイトルを変更いたしました。なお、当サイトの記事は、講演内容を編集部の文責にて再構成しています。