ゴールイメージの明確な準備で、難関を突破した (ヤバい日本縦断vol.3準備編)
コト

ゴールイメージの明確な準備で、難関を突破した (ヤバい日本縦断vol.3準備編)

ウェルビーイング・ラボ セミナー開催報告

35歳からの身体パフォーマンス論
日本一過酷な山岳レース完走者トリプルトークショー

講師:岡田泰三(54)、阿部公一(38)、吉藤剛(35)
2018.10.10 東京・渋谷 株式会社メイクス

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スピーカー3名が参加したこの20188月の山岳レースに新たに出場するためには、さまざまな基準をクリアした上で、2日間にわたり南アルプスで実施される選考会に応募します。今年の選考会参加者は70名(男性68名、女性2名)、うち通過者は24名のみ。これに前回2016年完走者から希望者16名を加えた40名から抽選で29名の本戦出場者が決まります。残りの1枠は前回優勝者です。(『TJAR2018大会報告書』より)
本戦では完走者27名、8日間の過酷さを考えれば、90%とはかなり高い完走率ではないでしょうか。逆にいえば、それだけ選考が厳しいということですね。

前回までは、レースの過酷さ、苦しさが語られてきました。今回テーマは、ここに至る準備についてです。三者三様のスタイルがおもしろいです。お読みください!

準備は三者三様

— 大会出場までにどのような準備をしてきたのですか?

阿部公一(あべ・こういち)さん、38歳(以下阿部):

阿部
私が運動を始めたのは、体脂肪が20%を超えて、ダイエットのためにロードバイクを購入した2012年からです。
翌年にNHKの番組の本を読んで刺激されて、登山、トレイルランニングを始めて、その頃から、選考の要件を満たすように準備してきました。
2014年から一人で奥多摩・奥秩父の低い山で泊まりの山歩きを始め、その年にはアルプス縦走にチャレンジしました。以来、大会コースを分割しながら全行程を合計ほぼ4回走ってきました。北アルプスだけ3回です。ロードもちゃんと走りました。

僕は、現場に入るのが一番早い、という考え方です。まわりでは、試走する人は少ないみたいだけど、僕は現場に行くのが一番やる気になります。

  編集部注:『TJAR2018大会報告書』によると、阿部さんのアルプス縦走トレーニングは、

  2014年: コースタイム短縮率80-100%(完走のための標準タイムから、2割速い〜同じタイムで走る)、小屋泊
  2015年: コースタイム短縮率70%程度、1泊〜3泊、ドームシェルター泊
  2016年: コースタイム短縮率60%程度、午前2時から午後6時までの行動を複数日連続、ストックシェルター泊
  2017年: コースタイム短縮率50%程度、25〜30時間程度のコースを1〜2泊、ストックシェルター泊
  と、毎年、速さ、距離、難易度を高めながら着実に進歩してきたことがうかがえます。



岡田泰三(おかだ・たいぞう)さん、54歳(以下岡田):

岡田
私は特別なことはしていなくて、山にたくさん行く、長く歩き続けることを重視しています。
出たいと思ったのは2014年、山を始めて1年くらい経った頃です。山の経験が不足しているので、まず神奈川山岳連盟の雪山合宿などの講習をうけました。
2015年に分水嶺トレイル大会に出た後、夏はコース下見でアルプスを縦走。このときが初めてのアルプスです。はじめは選考会コースの試走、二回目にはミラージュランドから駒ヶ根まで。大浜海岸のゴールまでいくつもりでしたが、時間切れで中央アルプスまで。

選考会に出る要件を満たすために、標高2000m以上でのビバーク(簡易テントなどを使った野営)などの経験の数も必要なので、槍ヶ岳からコースを外れて穂高に入ってもう1泊して、というルートです。これで、二百何十kmかくらいは行けるんだ、という経験になりました。それ以前は、太平洋まで歩き通すことはできるけど、1週間でいける自信はなかったです。

吉藤剛(よしふじ・ごう)さん、35歳(以下吉藤):
吉藤
2015年の分水嶺トレイルの後、試走をかねてアルプスに入りました。ロード区間は車でドライブ。シェルター(簡易テント)で寝る経験も少なかったので、近所の公園にシェルター張って寝たり、雨の日に寝たり、という怪しいこともしていました。

ゴールイメージの明確さ

— 厳しい選考会を突破できた理由については、どう考えていますか?

阿部: この3人の中で選考会を通ってきたのは私一人*なので、このお二人からは審査員の目線で語っていただくとして(会場笑)、私からは選考会の通り方についてお話ししたいと思います。
  (*岡田さん吉藤さんは選考会に審査員として参加することで免除される)

受験に際して、

阿部
(自分は絶対うかる!)
という自信をもって挑みました。会場の仙丈ヶ岳は10回以上入ってますし。
ここは賛否両論あるんですが、試験の会場と内容が公開されているので、分かれば準備するよね、という話です。

シェルターを張るとかの実技試験もあるので、
阿部
(ここに試験官がいる!)
と想定して練習したりしました。実際に試験官が目の前にいて、今から4分で絶対に倒れないようにシェルターを立ててくださいと言われて正確にできる必要があります。これは普通の状況でできるかどうかとは、また別の話です。見られてるという意識で立てる、解体する、ということです。
そのためには固定する杭も、ここだったら刺さる、ここだったら刺さない、と瞬時に判断する必要があり、同じ場所で何度も練習します。

— 厳しい選考会を突破できた理由については、どう考えていますか?

阿部: 選考会が6月末にあるんですけど、本当に本番と同じような想定をするには、同じ時期に同じ気候で同じ条件でやります。何回もやります。
現場に行くと同じような人が何人もいて、
阿部
(ああ、あなたも受けるんですね?!)
とわかります。この1年前から集まってきているのは意識高い人たちですね。刺激し合えました。
こうして、もう絶対に間違えようがない、という状態で試験に臨みました。当日は準備してきたとおりに実行するだけでした。

岡田: 私は2016年に初めて選考会を通りましたが、当時、選考会よりも本戦の方を意識していました。初めて選考会を受けた時は、書類をどう書くかも分からないという状態でした。選考会のコースはわかっているので、実際自分がどれくらい歩けるのか、ある程度天気が悪くても一人で行って山歩きをしていたので、それで鍛えられたと思います。これは選考会のコースに限らずやってました。

中央アルプスや南アルプスで、夜にガス(霧)が出て、視界が1mぐらいしか見えない、立っていると足元ぐらいしか見えない中で、コンパスを使って何とか突破する、という経験もしました。ミスったら遭難する、ってこういうことなんだなと実感しました。
本戦に近い環境での山歩きを普段からしていたから、経験値も上がっていったのだと思います。



— 阿部さんは選考会と同じことしてきて、岡田さんは本戦と同じことをしてきたんですね。

岡田: 本番と同じことをやろうとしても、体力的に限界があるのでできないわけです。そこで、コースを分割して、どこからどこまで、次はどこからどこまで、と二泊三日以上のアルプス縦走を何度かしました。

吉藤: 私は2016年の選考会が初めてですが、阿部さんのような緻密な事は一切やっていなくて(会場笑)、選考会コースの試走はやりましたけど、それより私は、山の幅広い知識を取り入れようと考えていました。

地図読みの試験があるので、地図読みのロゲイニングやオリエンテーリングの大会に出たり、あとシェルターを張って寝る練習をしたり、レスキュー講習会とかで緊急時の対応の仕方を勉強して、選考会に挑みました。2016年の選考会は暴風雨が激しくて、シェルターを張る時にちょっとペグ(固定杭)が抜けかけて倒壊しかかって、ちょっと失敗したなと思ったのですが、なんとか合格しました。地図読み練習を活かせましたし、緊急時の対応もレスキュー講習会が活かされたと思います。

— 準備の仕方が三者三様ですが、共通するのは、ゴールイメージが明確なんですね。自分なりの目的意識を持って準備をされているなあと思いました。

選考に「出ること」が目標になっている人は、ひと目でわかる

— ところで、さきほど阿部さんから、「審査員の目線で」という言葉がありました。この点はいかがですか?

岡田: 私は今年は前回完走者として、選考会のボランティアスタッフを担当したんですが、受かる人、受からない人は、「見ればわかる」のです。一言でいえば、「アルプスの山歩きに慣れていないな」とわかってしまいます。

たとえば、装備です。

岡田
(この天候でこのウェアですか? ガタガタ震えて寒そうですよね?)
とか。地図が読めない、シェルターを立てられない、これもひと目でわかります。

選考会は一泊二日なので、日程的には本戦全体と比べて5分の1程度しかありません。余裕もって平然とできないといけないんです。でも落ちる人は、それだけでアップアップになっています。「選考会に出ること」が目標になってしまっているのではないでしょうか。「大浜海岸フィニッシュまで行く」レベルの準備をしてきた人との差は、ひと目でわかるんです。
逆にいえば、阿部さんのように「落ちる気がしない」というくらい出来る人は実力があるということですね。

阿部: 実際、選考会は余裕ありました。いつもやってきた通りのことをするだけだから、全て自分のペースで進めることができました。他の参加者にも
阿部
一緒にがんばりましょうね!
と声をかけながら楽しんでいるくらいでした。

(続く)

~編集後記~

ゴールイメージ、つまり目標を明確にし、どのようにすれば実現できるのかをリアルに考え、実行する。必要なことはシンプルなのだと思いました。第4回掲載では、この大会の魅力を掲載予定です。おたのしみに!よろしければSNSアカウントもフォローください。

(構成:ウェルビーイング・ラボ編集部)