最終回:チャレンジの先にあるもの(ヤバい日本縦断vol.4)
コト

最終回:チャレンジの先にあるもの(ヤバい日本縦断vol.4)

ウェルビーイング・ラボ セミナー開催報告

35歳からの身体パフォーマンス論
日本一過酷な山岳レース完走者トリプルトークショー

講師:岡田泰三(54)、阿部公一(38)、吉藤剛(35)
2018.10.10 東京・渋谷 株式会社メイクス

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三者三様に、本番を具体的にイメージしながら準備し、8日間で日本を縦断する。その先に得たものとは?ついに連載最終回!

— お仕事や社会生活との関係についてお伺いします。この日本縦断レースへのチャレンジを決めて、変わったことはありますか?

阿部公一(あべ・こういち)さん、38歳(以下阿部):
残業が減りました。ちょうど「働き方改革」が言われ始めたタイミングと合ったこともありますが、それ以上に、仕事の効率が格段に上がったからです。
3、4年くらい前から山に行き始めると、時間が足りなくなります。

阿部
夜はジムに行きたい、週末は山に行きたい。そのために、無駄なことは一切しないようになりました。


岡田泰三さん(おかだ・たいぞう)さん、54歳(以下岡田):
私は山に行く前から空手をやっていたので、時間を確保するということは以前から意識していました、しかも通勤に片道2時間半かかります。
  (注:岡田さんは父子家庭のパパであり、ご家族の介護のお手伝いもされており、家庭を優先せざるを得ない状況にあるそうです)
職場は水曜日が定時退社デーで残業なしで帰れるので、空手やっていた時は水曜に道場に行き、今は走ったりスイミングに行ったり。
岡田
やはり私は何が優先順位かと言うと、練習なんです。
仕事じゃないです。
だから会社の飲み会とかは、出れないですって言ってます。
実際、スイミングとか練習の予定を先に入れているので、出れないです。それが10年以上続いています。
どうやって時間を作り出すのか、が大事です。余計なことはしません。


吉藤剛(よしふじ・ごう)さん、35歳(以下吉藤):
吉藤
私も皆さんと同じで、無駄なことをしないで時間を作っています。仕事はちゃんとしてますが、残業とかはほとんどしません。
家まで30km弱あって、帰宅ランを週1でやっています。途中「ラーメン二郎」があるので、食べ過ぎて走れなくなると20キロぐらいで終わりますが。あとは、重さ30kg以上のザックを背負って家の周りを走ったり、家で筋トレをしたり。 そういったことを週1ぐらいでやっています。

— 平日は、週の半ばに1日だけ、ポイントを置いて、あとは週末に、というパターンですね。これなら、バランスを取れそうです。

加齢の影響は?

— 次に年齢について。みなさん30過ぎから走り始めて、年齢が上がる中で、 自分の体のパフォーマンスを上げるとはどういうことでしょうか?

吉藤: 私は35歳ですが、全く考えてないです。

阿部: 私はまだ38ですが、32歳ぐらいから始めて、今が人生ピークのパフォーマンスです。だから何も問題意識を持っていないんです。この話題は岡田さんでは?

岡田: 私は空手を始めたのが39歳で、当時、私を指導してくれる茶帯・黒帯の人が、自分より若い35歳ぐらいかと思ったら、40代、50代でした。私の体重が90キロぐらいあったころです。年齢よりも鍛え方なんだなと思いました。
ただ私も、45歳ぐらいから、

岡田
去年できていたことが、出来なくなってる・・・

と感じることが出てきました。私はフルコンタクトの空手をしていたので、どうしても打撲など怪我をしてしまうんですが、今までは1週間で治っていた怪我が2週間、3週間かかるとか、年齢を嫌でも実感するようになりました。

いま気を付けているのは、 パフォーマンスを上げるためには、いかに空白を作らないか、です。昔はどれだけ頑張るかを考えていたんですが、今は「今日はダメ」と思ったら、さっとあきらめて他の練習をするとか寝ちゃうとか。つまり「パフォーマンスを上げる」というより「落とさない」という方向をどちらかと言うと重視しています。

休養・回復について

— 普段のトレーニングでは、休養と回復についてどう考えていますか?

岡田: 準備段階のケアでは、大きな大会の前では、いつも決まった鍼灸院に行っています。先生がマラソンの年齢別ランキング日本1位になるようなトップランナーの方で、走るということに関してよくわかっていて、触っただけで「ここだめでしょ?こうでしょ?」ということを教えてくれます。大会2ヶ月ぐらい前から毎週のように行っています。
私は体が硬いので、腸脛靭帯をよく痛めてしまいます。痛い右脚をかばって、左側に痛みが出るということもあるので、大会前にほぐしてもらっています。

阿部: 私はまだ経験が浅いので、トラブルはほとんどないんです。唯一失敗したのは、2017年の「トルデジアン」(Tor des Geants, イタリアの合計330kmの山岳レース。NHK番組「グレートレース」でも紹介されている)で腸頸靭帯を痛めてリタイアしたぐらいです。原因はケアをしていなかったためなので、以後、整体に行くようにしました。

吉藤: 私は特に何もしていなくて、ストレッチとか、ほぐしたりとか、針とかもしていないです。ただ膝を痛めたことがあったので、筋力トレーニングをして補強するようにしました。

岡田: レース中も休養・回復は重要です。前回は睡眠時間を削って長く動けるようにしようと思っていたのですが、それでは体がボロボロになってしまうので、今回は前回の倍ぐらい寝るようにしました。

吉藤: 私もレース中の睡眠は、14時間と決めてしっかり寝るようにしました。前回の倍ぐらいです。途中、悪天候で身体が冷えたり、胃のトラブルも起きましたが、休憩して回復させることでダメージを最小限にできたと思います。レース中の幻覚も、結局は睡眠不足が原因ですね。

あと前回は雨が降っている時に足がふやけてしまったので、朝起きたら足裏に保護クリームを塗って、マメができないようにしました。シューズが濡れて足にマメができて、破れて走れなくなる人は結構います。

これから

— 今後の目標は何ですか?

吉藤: 海外レース、トルデジアンとか出てみたいですね。
前から、自分でコースを計画して、目標時間も決めて、という自己チャレンジは続けてきたので、それはこれからも続けていこうと思います。

岡田: 今年の大会は完走はできましたが、自分で設定した目標を達成できず、すごく悔しかったので、次回は目標クリアしたいと思います。海外レースは興味はあるんですが、おカネとかの優先順位がありますから・・・。

トレイル・ランニングは今は選手としては出ていなくて、ハセツネ(長谷川恒男カップ、日本山岳耐久レース。総距離71km累積標高差)くらい。主に、オリエンテーリングとかロゲイニングとか、地図読み技術を競うものが多いです。

今は山なんですが、この形式の長時間のは正直、そんなに身体によくない意識があります。60過ぎたらトライアスロンとかに移るかもしれません。昔やったことあるし、スピーディーでおもしろいので。身体にも優しいです。あと、もともとやってた空、グライダーにも戻るかもしれません。

阿部: 僕は何もないです。ずっと出たかったこれに出れたんで、あとはもう寝て過ごしてもいいです。(笑)
ただ今回は完走が目標だったので、もし次に出ることがあれば、ガチでタイムを狙いたいです。出たい人がたくさんいる中で、もう一度完走目標、というわけにもいかないですよね。もしも私が次回エントリーしていたら、ガチで狙いに来ているなと思っていただければ。

最後に

— この大会で得たものは何でしょうか?

阿部
夢は叶うんだ!
ということです。自信がつきました。本当に心の底から、
阿部
オレがんばった!
って思えることはあんまりないんですけど、これはそうでした。
最初に憧れてから5年間、1日も忘れることなく、研究、練習、準備を重ねてきました。一見難しそうに思えるチャレンジでも、積み上げることで実現できた、という経験でした。



岡田: 人から声をかけられることが増えました。私は人の顔とか名前とか一致させるのが苦手なのですが、この活動を通じて、人とのつながりが豊かになっていきました。

もう1つ、「すごいことをするためには、どんなことを、どれくらいやればいいのか」が判断できるようになってきたと思います。これはシニアの空手日本一になった経験も含めてのことです。
それは結局、「自分に向いているかいないか、好きになれるかどうか」だと思います。好きなことだから続けられる。周りからは「こんなキツイことを!」と驚かれますが、ただ自分が好きなことをしているだけ、楽しいことを楽しんでいるだけです。

吉藤: 私は山仲間が増えました。山でタイムトライアルとか自主イベントを企画するようになって、最初は私いれて2人だけだったのが、今はそうそうたるメンバーが何人も出てくれて、これも前回完走してからのことかなと思います。

1週間にわたり山に入り続ける、というのは、レースだからこそできること。レースでもないと仕事も休めませんし。これを経験してから、時間の感覚もかわりました。週末に山に入って12日するのに、同じ時間でも短く感じるようになりました。

阿部: 415 km走るという感覚は、スタート前には想像がつかないんですよね。これに本当に憧れ続けて、スタート直前に参加者で「円陣組もうぜ!」ってなって、すごく高揚感があって、夢心地というか、浮き足立つというか。このためにやってきたんだなと。
スタートしたら、11日を確実に過ごす、自分にチャレンジはしない。僕はずっとそう決めてきたんですけど、ただ途中は、

阿部
先長いな・・・
足痛いな・・・
眠いな・・・
と辛いことばっかりでした。
最後ハイになって、30kmぐらい猛ダッシュしてました。そんなにテンションが上がるくらい楽しかったです。
そしてゴールしたら、嫌な思いは全部消えちゃうんです。僕はゴールで泣いちゃったんです。

吉藤
そんなことを、かつて体重80kgだった私が実現したわけです。

岡田
私は、最高体重98kgの体脂肪率28%からです。(笑)

(写真提供:倉橋俊行さん)

~編集後記~

1kmも走れないような太った身体からでも、目標を決め、行動を積み上げることで、すごいことを実現できる。三者三様の取り組みに共通するのは、そんな人生の教訓ではないでしょうか。
日本縦断レースの連載は終了しますが、己の身体をかけたチャレンジについて、ウェルビーイング・ラボでは引き続き特集していきます。引き続きフォローください。

(構成:ウェルビーイング・ラボ編集部)