
サラリーマンのための個人M&A入門 by 三戸政和
5. リスクとの向き合い方
<このページのまとめ>
◆ 失敗が怖ければ計算しよう◆ 資本主義のルールに「マイナスの計算」はない
◆ 買収も経営も「感情」をケアしよう
◆「人生100年時代に何もしないリスク」を考えよう
◆ 中小企業M&Aビジネスの賞味期限は10年間
失敗が怖いなら計算しよう
失敗が怖い、という声もよく聞きます。実際それが企業買収への最大の障壁でしょう。
ここで考えるべきは、投資とは「期待値」の計算であるということです。
たとえば300万円投資して、見込みがざっくり
- 1000万になる確率:30%
- 300万になる確率: 50%
- 0円になる確率: 20%
くらいの手応えだとします。
この場合の期待値を計算すると
となり、期待値は300万円+150万円+0円で合計450万円。つまり300万円を元手に150%の利回りを期待できる、と計算できます。
投資を怖がる人は、このうち最悪のケースだけを考えてしまうんです。投資できる人は、全体を考えています。
M&Aに「マイナス」はない
上記の期待値の計算には「マイナス」のケースはありません。これは大事な資本主義のルールで、「有限責任」という株式会社の仕組みです。どれだけの損失を出しても、株券の価値がゼロになるだけです。
「未払い残業代」の例
現実的な例では、たとえばデューデリジェンス段階(買収前の経営リスク調査)で多いのは、「未払い残業代」です。たいてい出てきます。想定しておけば、それを見込んで買収金額を決めればよいです。
よくある失敗ケースで、こうした金額をオーナーに細かく詰めてしまうのがあります。たとえば、5億円で売ってもらう交渉中に過去2年間分の未払い残業代3000万発覚、じゃあ4億7000万にして、とやってしまうんです。これはオーナーさんの気分を害します。自分で育ててきた会社を手放すのに、値切られたくないんですよね。こうなると最終的に売ってもらえないことが多いようです。
だから僕らは、こういったマイナス分が出てきても、マルっとかかえて買ってしまいます。最終的にそれ以上で売れればよいわけですから。
計算よりも胆力
このあたりは人間心理です。胆力も必要です。
個人保証は受けない
日本の場合、金融機関が経営者に個人保証を要求する場合があります。それはしない、と決めればOKです。銀行が個人保証を要求してきたら、断って他の金融機関を探せばいいんです。
だから、最悪でもゼロリセットなんです。ゼロからプラスの方向しか無いんです。
それよりも、日本のサラリーマンの方々が考えた方がいいのは、「人生100年時代に、何もしないリスク」ではないでしょうか。
賞味期限は10年間
この中小企業M&Aビジネスは、今は稼げる事業ですが、もって10年だと思っています。なぜなら、社長の年齢層を考えると、今後10年間が日本の事業継承の大きなヤマになるからです。10年を過ぎたらチャンスは激減するのではないでしょうか。だから、参入するのなら、今のうちに将来への布石を用意しておく必要があります。
私が本を出したのもその意味が大きいです。今日ここでお話しているのもそうです。できるうちに
そんな私と行動を共にしていただける方へ、普通のサラリーマンのための現実的なステップをお伝えします。今すぐ買収するつもりのない方も、将来何かの役に立つかもしれません。
次ページは最終回、” 6. サラリーマンのためのM&Aの始め方 “をお伝えします。