“糖質制限 × 長距離スポーツ”の教科書 by 小谷修平

“糖質制限 × 長距離スポーツ”の教科書 by 小谷修平

4. 適応へのプロセス

<このページのまとめ>

◆ 急激な変化が、続けるモチベーションになる
◆ 3週間で「食習慣」として慣れ
◆ 3ヶ月で「強くなるための練習」ができるようになり
◆ 半年で「メインレース」に挑むことができる
◆ 失敗を受け止めて、成長のきっかけに転換する

変化には感動がある

私は、こうした糖質制限食に、一気に変更しています。
では、みなさんにとってはどうか?確実な答はない、というのが前提になりますが、始め方には2つの考え方があります。

まず、ネットなどでよく見るパターンから紹介しましょう。

ネット上の専門家
急にやるのは危険だから、徐々に慣らしていきましょう。
はじめは糖質1200g800Kcal)から、80g70g、と減らしていきましょう。
といった安全パターンです。
この意見が数としては多いかと思います。

私は、
小谷
一気にやる!
という考え方です。同じことを他の専門家も言っています。
そのほうが結果的には楽じゃないか?と直感的に思うんです。
一気に減らしたほうが、早く適応できるからです。

人は緩やかな成長より、変化が急激な方がおもしろいのではないでしょうか。

新しい取り組みを始めた時の、

きつい!
という感覚は、
変化がある!
ということです。その変化が急激だと、ある種の感動が生まれて、続けるモチベーションになるのではないでしょうか。

そして一気に減らすことで、移行の苦しい期間も短くなるはずです。1年と長く続けるのは大変だけど、1週間、1ヶ月なら我慢できそうじゃないですか。性格的な向き不向きもあると思いますが。

一般的な適応期間

適応期間について情報を整理すると、一般的には以下のように言われているようです。

直後     : お腹がすいてイライラしたりする

3週間後  :「食習慣」として慣れてくる。イライラしたりしなくなる。ただし運動のパフォーマンスは落ちており、脚が重いなどの感覚がある

2ヶ月後  : 運動がそれなりにできるようになる。まあまあ走れる。ただし前より弱い。「糖質取っていた方がいいんじゃないか?」という思いも残りがち

3ヶ月後  : スピード練習など、強くなるための良い練習ができるようになる。ただし、一度低下した体力はまだ元の水準に戻っていないので、パフォーマンスはまだ落ちたまま

4〜4.5ヶ月: 良質な練習の効果により、元のレベルに戻る

半年後    : メインレースに挑める(安全マージンも考慮)

小谷さんの適応期間

私の経験は特殊だと思いますが、当時の記録を整理してきたのでお伝えします。

一回目の挑戦では、去年(2017年)6月ごろ、3週間で挫折したわけです。当時ランニングのパフォーマンスも落ちています。そして、201710月から再チャレンジしたところ、いきなり34日後から食生活レベルで慣れました。

2週間後の変化

2週間後には、以下のような変化が表れている、と当時の日記に書かれています。

「体内にスイッチが入った」感覚がある

・ケトン体濃度を測定すると、1.5/mil(ミリモル/リットルあたり)ほど。この時点で、脂肪からケトン体を産出する仕組みが回り始めているといえます

・走り始めると、はじめ40分間までは脚が重い感覚があるが、40分以降は、スイッチが入ったように走れるようになる

この時点で、代謝=エネルギーを使う仕組みが変わりはじめていると思われます。
日常生活の変化では、

・パン屋さんを余裕で通り過ぎることができるようになった

日中、眠気がなく頭が冴える。事務作業の効率が上がっている感じ

とあります。1回目に挫折した時には炭水化物系の美味しい匂いがキツかったので(前回記事参照)大きな変化です。

マイナス点として、

・走ると口が渇く。減量するボクサーも言っていることで、単に「喉が乾く」のではなく、身体全体が求めている感覚がある

・朝、眼が覚めると眼が痛いことがある

と書いています。眼が痛いのは、糖質制限食をしている人の何人かが言っていて、実は今もたまに起き、一度病院にも行きましたが、特に問題はないとのことでした。

身体がどんどん変わっていく実感

ランニングのパフォーマンスも、標準的なケースのほぼ2倍速ペースで上がっていきました。

6週間後「強くなるための練習」ができるようになる。スピードを上げたインターバル練習、40分間ぐらいの全力走など。実りある練習ができるようになって嬉しい

8週間後「朝食抜き無補給での50kmラン」ができた。こんなことは昔の自分には考えられなかった。自分の変化にワクワクする

3ヶ月後食抜き無補給でのラン距離が70kmまで伸びる。身体がどんどん変わっていく実感がある。過去最高の自分になっているのでは?という感覚が得られた

この間の月間練習量は、

  • 1ヶ月目: 200 km
  • 2ヶ月目: 380 km
  • 3ヶ月目: 520 km


と増えてきました。

これは私の特別なケースですが、一度挫折したおかげなのか、二度目のチャレンジの適応がものすごく早かったです。

台湾24時間走の失敗

私は糖質制限を始めて4ヶ月半が経った頃、台湾の24時間走の大会で、どこまで脂質だけで走れるのか人体実験をしてみました。

レース中24時間での糖質摂取を320g以下(毎時13g=53Kcal以下)にしようと計画し、補完のためMCTオイル(ココナッツオイルの主成分、通常の脂肪よりも早くエネルギー化される)などもレース中に摂ってみました。
結果は130 km、12時間過ぎに低血糖症状で走れなくなり、再スタート出来ずリタイアしてしまいました。

このとき、100 km 過ぎ時点では快調に走れていました。100 kmの通過が8時間15分、いつもは8時間20分のことが多いので、

小谷
糖質制限して記録出るんじゃないか?
とワクワク走っていました。その時、1 km 5分10秒くらいのペースです。
しかし1時間後、550秒あたりまで落ちていました。

その時の感覚をよく覚えています。ほんの数分の間に、一気にキツくなるんです。
みなさんも経験ありませんか?
疲れって、急に来やがるな!

これがハンガーノックです。正確にいえば、筋肉中のグリコーゲンが足りない重さです。おそらく私は、糖質補給が足りなくなり、110 km地点くらいで筋肉のグリコーゲンがほぼ枯渇してしまって、アワアワ状態になってしまったんです。
そして、その後、肝臓のグリコーゲンも足りなくなったのでしょう。
その結果、脳にも血糖を送ってくれなくなり、フラフラする、死にそう、という感覚が発生したのです。

限界を超えた低血糖になると、光が眼に残って消えないなどの症状が出ます。この時、私に起きたことはまさにこの状況でしたので、私は低血糖を起こしていたと考えて間違いないと思います。

失敗からの学び

台湾24時間走に向けて、私は100 kmまでは練習の中で走れることを確認していたのですが、そこから先が未知の世界だったので、レースでその限界が露呈したわけです。

私は台湾での失敗の後、ボレック博士の論文を読み直し、計算し直しました。そして、想定違いにより糖質枯渇していたことに気づきました。

想定では、エネルギー中の糖質利用率15%でした。しかし実際には、糖質への適応が不十分だったのか、もっと使っていたようです。摂取した糖質はリタイアした130 kmまでに150gくらい。それでグリコーゲンが枯渇するということは、おそらく台湾での私は、糖質利用率20%くらいだったのでは、と計算し直してわかりました。
普通のランナーは、24時間走では糖質利用率50−55%くらいです。厳密に検証する場合、呼吸商を測定すればわかります。

他にも失敗経験はいくつもあり、そのたびに、限界を超える成長のための大きなきっかけになってきました。

(次ページ ” 5. 脂肪活用への経験論 “へ続く)