“糖質制限 × 長距離スポーツ”の教科書 by 小谷修平

“糖質制限 × 長距離スポーツ”の教科書 by 小谷修平

6. レースへの対応

<このページのまとめ>

◆「練習でできないこと」も出来るのがレース本番
◆ レースで仮説を検証する
◆「食べずに走れる距離」で、成長度をチェックする
◆「食べながら走る負担」の大きさに気づく
◆「将来の自分」にワクワクするから、チャレンジできる

練習でできないことは、試合でできる

スポーツの世界では、よく「練習できないことは試合でもできない」と言われます。しかし、24時間走という競技では、同じことを練習ではできません。その必要もないと思っています。

かわりに私は、レース当時の状況を想像しながら、仮説を立てます。レースで必要な要素を分解し、わからないところはスポーツ科学の理論にあてはめたり、経験者に聞きながら、シミュレーションをします。

そしてレース本番で、これら仮説を検証しながら走ります。

レースのシミュレーションはレースで行う

レース中の補給も同様です。2018年春の台湾での24時間走では、糖質補給量を最低限ギリギリに設定して失敗したのは先ほどお話した通りです。

11月の神宮外苑に向けて、糖質量を増やすことにしましたが、これも「24時間走」という状況で行うのはレース本番の一発勝負になります。そこで、糖質制限の先輩である石川佳彦選手(24時間走世界王者)に話を聞き、1時間あたり30−35gという糖質摂取量を決めました。

そのテストのために、神宮大会の少し前にあった12時間走の大会を利用しました。ゴール地点を24時間走の中間地点とみなしたシミュレーションをしたわけです。実際走ってみて、ゴールで余裕があったので、24時間走でもできるだろう、と判断しました。

ここまでで、確認できたのは12時間までの状態です。そこから先は未知の領域で、やってみないとわかりませんが、自分を信じることです。不安に駆られてはいけません。



適応度のチェック方法

私が適応度の判断に使うのは、「食べない状態でどれくらい走れたか?」の距離です。

夕食から18時間絶食した翌朝に、お腹が空いた状態で走り始めます。20−30km走ってみて、集中して走ることができて、問題なく帰ってこれ、ゴール時点でもお腹が空いていない。この状態なら、糖質制限がうまくいっていると判断します。

これは、昔だったら考えられない状態です。糖質制限を始める前もこうした無補給練習を行っていましたが、正直すごく嫌でした。当時でも30kmくらいまでなら無事家に帰ってこれましたが、後半きつい。朝食を食べてからでも40〜50 kmくらい走ると、何か食べたくなる。多くの熱心なランナーさんもこれくらいの水準かと思います。

ふだん練習は荒川の河川敷で1往復するので、お腹が空いた状態で家を出るのはちょっと怖いです。うまくいっている実感があるので、勇気を持って家を出ることができています。

脂肪から生まれるエネルギー源「ケトン体」の濃度も測定しています。この数値が上がると、ケトン適応できている、といえます。ただ、高ければいいというものではないようで、始めた当初は1.5/mil(ミリモル/リットルあたり)まで上がったのが、最近になって1くらいまで下がっています。ここからわかったのは、ケトン濃度が高いとは、ケトン体が「産出された」かの指標であって、必ずしもケトン体を「実際に使えている」かの指標ではないということでした。つまり、あまりアテになりません。

負荷レベルと心拍数

こうした無補給でのランニング練習は、24時間走を想定した、おしゃべりできるジョギング感覚くらいのペースが中心となります。心拍数では毎分135-140くらいが快調に走れるペースです。糖質制限以前とそれほど変わりませんが、毎分5くらい高くなった気もします。

30〜50分間くらいのスピード練習では、毎分170-180あたりが感触の良い強度です。以前のスピード練習は160-165くらいが感触良かったと記憶していますが、糖質制限を始めてからは緩いペースでは負荷が少なく感じるようになりました。

小谷修平

トレーニング後の食事

スポーツ栄養学では「トレーニング終了後30分以内に糖質と少量のタンパク質を摂る」というセオリーがあります。

私は、意識して食べなければ!という感覚はそこまでありませんが、基本的に走った後に食事をするようスケジュールを組んでいることが多いです。その食事でタンパク質は十分にとれます。糖質は摂取しません。

一般には、70kmを超えるような無補給練習なら、糖質を摂取した方がダメージが少なく、練習を継続しやすいと思います。それでも30分以内の必要はないと思っています。

レース前のカーボローディングについて

レース前の数日間に糖質を多めにとる「カーボローディング」については、ウルトラ系の長距離のレースではそもそもカーボローディング自体が不要ではないかと思っています。

※「カーボローディング」とは、筋肉中のグリコーゲン量を増やすために、「レースの2―3日前から高糖質の食事を摂り、同時にトレーニング量を減らす」メソッドです。
ちなみに1960年代に生まれた当時は「低糖質の食事と十分なトレーニング量とを3−4日続け、筋肉グリコーゲン量を激減させた後で、高糖質食を摂って急回復させる」という極端なメソッドでしたが、後の研究により、よりマイルドな方法でほぼ同じ効果を上げることがわかりました。スポーツ科学の進歩とはおもしろいものです。

私はレース前でも低糖質食を続けています。先日の神宮でもカーボローディングはしておらず、少なくともそこそこは走れると確認できました。

私が参考にしている石川佳彦選手にも聞いてみたことがあります。

小谷
前日や当日の朝は、炭水化物を摂るようにしていますか?
自分は前日も当日も糖質制限の食事で調子良いなと思っています。
石川さん
基本的にレース前後は糖質を摂ります。
ですが、カーボローディングのような極端な事はしません。消化器官に負担をかけてしまい、スタートラインに立つまでにマイナスの影響を受ける確率が高まると考えています。
普段通りの糖質制限食でも十分だと思います。
ただ、遠征先ではそれらを準備するのが難しく、特に飛行機の機内食などは無理なので、手に入る物を食べているといった感じです。
それまでに糖質制限で体を作っておけば、食べ過ぎさえしなければ、レース前に何を食べようが影響はないと思います。
とのことでした。

レース中の補給

レース中に補給するのは、レース中に必ず枯渇し、かつ欠乏による悪影響が大きいものが三つあります。水、電解質、糖質です。これらを最優先で摂ります。

あと微量ミネラルのサプリメント、眠気対策と脂肪燃焼を促すカフェインなどを少し摂ります。
タンパク系、アミノ酸、クエン酸などは私は使いません。

これから

まだ極めてはいません。

神宮の24時間では毎時30gとった糖質を、もっと増やしたらどうなるか?
48時間では?
6日間では?
と、検証したいテーマはたくさんあります。

糖質制限を継続しながら、実験していくつもりです。

自分の身体が変化していく実感

いろいろ勉強していれば、糖質がすごく大事なことは分かります。だから私もこれまでセミナーなどで、糖質をたくさん摂りましょう、ちゃんと食べればパフォーマンスは上がります、と言っていました。

でも、食べるのきつかったんです。辛くないですか?食べることのメリットと、食べることのきつさと、私は両方味わってきたんです。

私がこの糖質制限チャレンジによって、低血糖でも走れるようになり、そして食べないで走ることがこんなに楽なんだ!と気づくことになりました。

モチベーションになっているのは、「走っている途中にお腹が空かなくなる」という変化の感覚です。興味を持って、やってみたら、変化を感じます。うまくいっている、成長している、自分が変わっていく、将来の自分にワクワクできる。そんな感覚はものすごいもので、それが食欲を超えて、ここまでやってみました。

興味がある方は、一回試してみていいと思うんですよね。今の自分と、将来の適応した後の自分が変わっている可能性もありますから。

< 講師紹介 >

 小谷修平(おだに しゅうへい)
ウルトラマラソンランナー、ランニングコーチ、株式会社修徳 代表
東大工学部、同大学院、フィットネス企業を経てコーチを開始。
主な競技実績:2012年24時間走競技 世界ランキング6位、2017年24時間走競技 世界選手権日本代表など

※この記事は、2018年11月開催セミナー「「糖質制限×脂肪燃焼」で長距離レースを戦うということ」(東京・渋谷 株式会社メイクス カンファレンスルーム)の内容を編集部にて再構成してお届けしています。

(構成:ウェルビーイング・ラボ編集部)