痛みのマネジメント論 by 河合隆志

痛みのマネジメント論 by 河合隆志

自分の限界へのチャレンジは100年人生を刺激あるものにします。

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しかしチャレンジとは苦痛も伴うもの。スポーツに痛みのリスクは付き物ですし、ビジネスの場でも腰痛や肩こりなどに悩む方も多いのではないでしょうか。私たちは「痛み」にどう向き合うべきなのか?

そこでウェルビーイング・ラボでは、痛みの専門医・医学博士 河合隆志(かわい・たかし)先生のクリニックを訪れました。河合先生は、痛み研究の最先端をいく愛知医科大学学際的痛みセンターでの勤務、米国のペインマネジメント&アンチエイジングセンターでの研修なども経験した専門医です。2018年に刊行された『痛み専門医が考案 見るだけで痛みがとれるすごい写真』(アスコム)もヒットしました。


河合先生は、世界の最新科学と先生ご自身の治療実績に基づき、痛みとは「マネジメントする対象」であると説明します。この記事では先生のへのインタビューを構成し、痛みの正体、そして痛みへの向き合い方をお伝えします。

< 連載記事 >
1. 痛みの仕組み
2.「ニセの痛み」の治し方
3. スポーツの痛みへの対処法
4. 著書『見るだけで痛みがとれるすごい写真』の解説

1. 痛みの仕組み

<このページのまとめ>

◆ 2種類の痛み
◆ 脳内で生まれた痛みが記憶されて「慢性痛」になる
◆ 痛みのアクセル「扁桃体」
◆ 痛みのブレーキ「側坐核」
◆ 側坐核を活性化させて痛みを抑える

慢性痛の国内患者数2300万人

日本で慢性痛に悩む方は2300万人、4−5人に1人にもなります。そんな痛みの原因は「脳」にあることが、世界の医学研究によって明らかになっています。

例えば、あなたがヒザを机の角に打ち付けてしまったとします。ヒザから痛みの信号が脊髄を通じて脳に伝わり、脳がそれをキャッチした瞬間に

イテテ!
と痛みとなります。この時、痛いのはぶつけてしまったヒザですが、その痛みを生んでいるのは脳なのです。

ヒザをぶつけたのなら、痛みの原因はヒザにあります。しかし慢性痛の痛みは「脳の不調」から生まれます。

例えば「幻肢痛」の現象があります。病気や事故などで足を切断された方が、すでに存在しない足先に痛みを感じることがあるのです。この仕組みは最新科学でも未だ解明されていませんが、「脳内の痛みを感じる部分の記憶が更新されていない」、あるいは「脳が錯覚を起こしている」ためと考えられています。存在しないところが痛いのですから、通常の痛み止めも効きません。

2種類の痛み

つまり痛みは、大きく次の2種類に分けることができます。

一つは「体由来」の原因が分かっている痛み。擦り傷・切り傷・打撲・捻挫・骨折・インフルエンザの頭痛や関節痛・痛風・尿路結石・帯状疱疹など明確な病名が付いているものです。こうした痛みは大変つらい場合もありますが、原因さえ取り除けば痛みはなくなります。治療に時間がかかったとしても、先が見えているだけで、人は希望を持つことができます。

もう一つの痛みは「脳由来」の原因不明の痛み、あるいは、原因を治したのに取れない痛みです。病院に行っても、何科を受診しても原因がわからずにたらい回しになることも起きてしまいます。原因から治したはずのに痛みが続く場合もあります。先が見えないために精神的にも苦しいものとなります。

痛みの原因は「脳」

これまでアメリカのノースウエスタン大学などの研究から

  • 痛みは全てあなたの脳の中にある
  • 脳の働きを解明することが痛みの解明につながる
  • 脳の活動が痛みの強さを決める

といったことが明らかになっています。

こうして脳内で生産された痛みは、脳の記憶媒体にも刷り込まれるため、「体が治った後でも痛い」ことも起こり得るのです。
そこで、脳の勘違いを正してあげることで痛みを消すアプローチが必要になるのです。ではどうすればいいのか?

もうその痛みは消えているよ!
と、心と体の両面から語りかけ、教えてあげるのです。

この仕組みをもう少し詳しく説明しましょう。

痛みのアクセル「扁桃体」

※図は編集部作成

痛みがある時、脳の「扁桃体」(へんとうたい)という部分が活発に働いていることが分かっています。扁桃体とは、大脳の中央下部にある1.5cmほどの神経細胞の集合体です。

この扁桃体は、動物的な本能を司り、嬉しい、悲しい、といった情動を司っています。とりわけ、恐怖・不安・怒りといったネガティブな感情に関わっています。こうしたネガティブな感情とは、生物が弱肉強食の世界を生き抜くための、恐竜の時代から発展してきた、原始的な生存本能にもとづく反応なのです。

痛みを感じると、まず「感覚」として

痛い!
と感知され、次に扁桃体によって
嫌な感じ!
との感情が生まれます。痛みが長く続くと、結果的に扁桃体が不調をきたし、異常な興奮状態になって、痛みの信号がなくても痛みがあるように感じてしまうのです。

この時、ストレスや不安を抱えている人ほど、扁桃体がビクビクし、勘違いで幻の痛みを発生させがちです。つまり慢性痛には感情の要因が強いのです。この場合、まず感情のレベルから治してゆく必要があります。

痛みのブレーキ「側坐核」

こうした本能的な反応を和らげるのが、脳の中心近くにある「側坐核」(そくざかく)という部位です。側坐核は脳の中心近くの左右にある2mmほどの器官です。

この側坐核は痛みを和らげる物質を放出しています。扁桃体のそばにいて、

大丈夫だよ!元気出せよ!
と勇気づけるような存在です。

ではどうすれば側坐核を活性化できるのでしょうか? たとえば側坐核は、やる気のホルモンである「ドーパミン」によって活性化します。ドーパミンの量が増えると、ビクビクしていた扁桃体は元の状態に戻って、

もう痛くないじゃん
と気付きます。

以上まとめると、扁桃体と側坐核をマネジメントできれば、痛みもマネジメントできるということです。

私のクリニックでの具体的な治療方法を説明しましょう。

(次ページ ” 2. 「ニセの痛み」の治し方 “へ続く)