痛みのマネジメント論 by 河合隆志

痛みのマネジメント論 by 河合隆志

4. 著書『見るだけで痛みがとれるすごい写真』の解説

<このページのまとめ>

◆「見るだけで痛みがとれるすごい写真」とは、薬ではなく、きっかけ
◆ 感情は「代弁者」を探している
◆ 行き場のない感情は、体に向かうこともある
◆ 痛みは、回復へのきっかけでもある
◆ 河合先生ご自身の痛みを治すための試行錯誤が今、活きている 

心→体か、体→心か

ここまで3回のお話から、痛みは心と体を、行ったり来たりしていることがおわかりかと思います。

「心→体」ルートの痛みがあります。
例えば、ひどい肩こりで悩んでいる患者さんが、この本を広げて写真を見たら痛みが和らいだ、診断を進めると実は感情のレベルで問題を抱えていることがわかった、そんなケースです。
心因性の肩こりであるわけですが、まず体の側の、筋肉の緊張を取る治療から入ることもあります。始めやすいところから始めていきます。

「体→心」ルートの痛みもあります。
体に痛みのある方は、痛みばかりを考えてしまって認知が固まってしまいがちです。すると心の側〜科学的には脳の側にも不調が生まれてしまうのです。前回紹介したように、ホルモン不足によって心の元気がなくなってしまうケースもあります。
こんなときは体を元気にする方に意識を向けると、認知も落ち着いてきて心の側の痛みも消えていきます。

去年刊行した著書『見るだけで痛みがとれるすごい写真』は、このような心と体のつながりに気付いてもらうための1つのきっかけになればと思っています。

「見るだけで痛みがとれるすごい写真」の意味

本では、写真を見て痛みを軽減させる手法を前半で紹介しました。ですがこの本は「痛み止め薬」ではありません。

「この写真を見て楽になるのならば、そこに痛みを治すヒントがあるのでは?」ということです。自分の生活を見直して原因を探してみましょう。例えば、会社で抱えている不安や揉め事に、まず意識を向けて欲しいのです。

「フェイスブック」や「インスタグラム」が流行る理由

―編集部
拝読して思ったのですが、この本はSNSみたいじゃないですか? 特に写真専門の「インスタグラム」だなと思いました。「インスタ映え」する写真は、美しさ、華やかさ、憧れ、など何らかの強い刺激がありますよね。今日のお話を伺って、それらは見る側の精神的なストレスを緩和しているのではないか?と思いました。

―河合
なるほど、言われてみれば、この本の前半はインスタグラムみたいですね。

―編集部
フェイスブックは人の社会的な繋がりをベースに「承認欲求」などを満たすSNSです。ツイッターは短文専門なので、読み手の「共感」を一瞬で呼ぶような詩的な文字が流れる。これらは情報を流通させながらも、同時に感情にも働きかけていますよね。それらが求められるほど、ぼんやりとした心の痛みのようなものを現代人は何かしら抱えていて、こういった刺激や癒やしが求められているのかなと。

―河合
人の感情は常に「代弁者」を探しているんですよ。SNSではよく毒も吐かれて拡散もしていますが、「感情の代弁者」をみんなが求めている結果なんでしょう。

マイナスの感情に行き場が無いときに、そのストレスが体に向かうことがあります。心のストレスを体に逃がしてしまう、自分の体に代弁させてしまうわけです。こうして強いマイナスの感情が身体化された結果、痛むことがありますね。

痛みは回復へのきっかけ

―編集部
SNSも一瞬のストレス緩和効果はあるかもしれないけれども、そのうちに慣れきてしまいますよね。本の写真が見慣れてきて効かなくなることはあるのでしょうか?

―河合
本の写真のような、人間にとって安心したり癒されたりする部分の本質は変わらないと考えますので、効果はあまり落ちないと思います。ただ、この本はあくまでも、1つのきっかけになってくれれば良いのです。問題のある人は、えてして問題があることに気づいていません。
当然こうした人は病院にもなかなか来てくれません。どこの病院でも、

なんでこんなになるまで放置しちゃったの? ここまで無理しちゃったの?
と必要な治療を受けられていないパターンは多いはずです。
そんな方に向けて、
でも、あなたのその痛みは治るんですよ!
と理解いただきたいのです。痛みを、病院に足を運ぶためのきっかけにしてもらえると良いと思います。

いくら理屈を説明しても、実感してもらわなければ伝わりませんし、まして行動してくれません。本の後半で説明した理屈を読んでもらうための入口として、前半では見れば直感でわかる写真を使っています。

河合隆志物語1 医師になるまで

「自分で自分を治せる本」を作りたいとの気持ちはずっと強くありました。なぜなら、私自身が原因不明の痛みに長年悩まされていて、なんとか治らないか?と苦労してきたからです。

私はもともと理工学部の学生で、大学院まで修了しています。大学院では研究のプレッシャーが強く、肩こりのような激しい痛みが出るようになりました。整形外科に行っても、麻酔科に行っても治らない。私の痛みへの関心はここから始まっています。

医者になりたい気持ちは子供の頃からありました。私の叔父が医者で、ずっと憧れていたのです。ただ実家が自動車部品の下請けなどをしていた町工場で、自分が継がないといけない。高校の時にも医学部を受験したいと親に言ったのですが、反対されて、やっぱりそうだよね、と理工学部に進学しました。医療機器メーカーにでも就職できればいいか、と妥協したつもりになっていました。

でもやっぱり医者になりたい気持ちは強く、自分の痛みも治したいという課題も大きかったこともあり、結局、医大を受験し直しました。合格でき、回り道にはなりましたが、再スタートすることができました。

河合隆志物語2 痛み解消への試行錯誤

医学部卒業後、2年間は研修医で色々な科を回りながら自分自身の方針を決めていきます。私自身の痛みを治す、という差し迫った関心を持って、医学生時代から自ら患者としていろいろと受診しながら学んでいました。

整形外科は体の損傷を治します。興味はあったのですが、自分の痛みは治せない。
痛みを扱うペインクリニック、麻酔科も、結果的には対症療法が中心で私の慢性痛は治せませんでした。
その頃から私には、「脳にも原因があるのではないか?」とのアイデアがありました。「ストレスで胃が荒れる、運動会の前に子供がお腹が痛くなる」といった心身症については昔から判っていました。心身症は胃腸に多いのですが、首・肩まわりの痛みとしても出やすいことも判ってきたのです。

精神科の先生にも相談しましたが、先生は

うーん・・・
と。精神科はうつ病など明確な精神疾患が主な対象だったのです。

結局、整形外科・ペインクリニック・精神科と全てを経験する中で、ズバリあてはまる治療法は見つかりませんでした。しかし、色々な検査を受け認知行動療法も自分でやっていく中で、私なりに痛みへのアプローチがだんだんと見えてきたんです。

研修医が終わり、一番近いと思った整形外科に進みました。この30歳頃にようやく、10年近く続いたしつこい肩こりがよくなってきて、これだったら人の役に立てそうだ、との実感も生まれました。

河合隆志物語3 痛み専門医への道

38歳ごろ、愛知医科大学の「痛みセンター」に移りました。慢性的な痛みを持つ患者さんの治療を専門に、整形外科医、麻酔科医、精神科医、歯科医、リハビリ担当などが集まり、「この患者さんの痛みはなんだろう?」と分野を越えたチームで取り組んでいます。
こうした横断型の痛み専門科は、アメリカやオーストラリアなど海外には昔からあったのですが、日本では最近ようやく各大学にもできてきました。愛知医科大でも、当時体制が確立されて6-7年目の日本最先端の施設です。
専門医としてのキャリアにとっても、大きかったですね。ちょうど私が博士号を取ったタイミングで、治療の実績も積んできた頃で、それらがなければ入れなかったでしょうね。

自分自身の感覚としてあったものが、他の領域の専門家と一緒に活動することで確信を持てました。自分が感じたものはやっぱり正しかったんだ、体と脳とは一体なんだ、ということです。
その頃には、自分自身の痛みはほぼ引いていました。

河合隆志物語4 理想の実現へ

自分の病院を作ったのは3年くらい前です。こだわったのは、自宅のようにリラックスできる場になることです。リラックスしきれることが痛みの軽減に繋がりますから。
たとえば靴を脱いで、スリッパも履かずに上がれるように清潔にしています。病院のスリッパには何か緊張感ありませんか? スリッパは用意していますがトイレぐらいしか使いません。

「自分で自分を治せる本」を作りたいという目標は以前からあり、去年くらいにようやく企画が進むことになりました。
当初は本の後半部分の理論的な解説中心で、写真を使うことは一章だけの予定でした。慢性痛の患者さんに対して、痛む時に「映画を見ましょう、好きな絵を見ましょう」という方法は昔からあったので、その説明の一部として考えていました。しかし途中で変更し、写真中心の本にすることになりました。

選んだ写真は、まず出版社さんに意図を説明して1000枚ぐらい集めてもらうところから始めています。その1000枚から私が厳選しているので、万人受けする自信があります。
実際、「写真を見て楽になる感覚がある」「久しぶりに湯治場に行ってみたら気持ちが明るくなって、元気になってきた」そんな感想をいただいています。

ここまで私自身が苦しみながら試行錯誤してきたことが、今になってようやく重なってきました。いろいろな回り道も多かったですが、今ふりかってみれば無駄ではなかった、全てが活きている、と思います。

その結晶がこの一冊です。痛みにお悩みの方にぜひ届いてほしいと思います。読まれた方は感想いただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします。

< 講師紹介 >

 河合隆志(かわい たかし)
1975年、愛知県出身。医学博士。日本整形外科学会専門医。
慶應義塾大学理工学部卒業、同大学院修士課程修了。
東京医科大学医学部卒業。東京医科歯科大学大学院博士課程修了。
その後、痛み研究の最先端をいく愛知医科大学学際的痛みセンター勤務後、米国のペインマネジメント&アンチエイジングセンターなどで研修。
2016年、フェリシティークリニック名古屋を開院。原因不明の痛みに悩まされている患者さんの「最後の砦」を自負し、対処法ではなく痛みを根本的に治す治療を試みている。

インタビュー実施: 2018年12月フェリシティークリニック名古屋

(構成:ウェルビーイング・ラボ編集部)