
“変身し続ける100年キャリア”の設計図 by 田中研之輔
人生100年時代の働き方、学び方について考えてみませんか? 政府や会社をこれまでのようには頼れない中、長くなる人生を自己決定によって生きていく時代です。私たちは何を手がかりに進めばよいのでしょう?
お話いただくのは、大手メディアから取材が相次ぐ注目の論客、田中研之輔教授(法政大学キャリアデザイン学部)。キャリア理論に基づく実践的教育メソッドにより法政大学ベストティーチャー受賞、人気のゼミでは10年間で約150名の出身者を第一志望企業群の内定へ導いた実績を持ちます。2018年7月の講演内容を再構成しお届けします。
< 目次 >
1. 幸せに長生きするために、変わり続けよう2. 人生100年時代のキャリアを「社会的資本」で構築する
3. 100年人生に備える大学生活のトリセツ
4. 100年人生の幸福を自らつかむために
1. 幸せに長生きするために、変わり続けよう
<このページのまとめ>
◆ キャリアは流動化、人生はマルチステージ化する時代◆ キャリア構築とは「キャリア資本」の蓄積と転換
◆ 自分自身をアップデートし続け、長くキャリアを構築する
◆ “たとえラットレースに勝ったとしても、君たちは所詮、ねずみのままだ”
◆ 教育の役割とは、変化への対応力
子供一人あたりの教育投資は800万〜2400万円
大学卒業までの平均的な教育費は、全て公立・国立の自宅生でも800万円を超え、幼稚園から全て私立の下宿生なら約2,400万円を超えるそうです(平成21年度 文部科学白書)。一方で「有名大学から大企業」という伝統的キャリアも不安定化しており、この大きな教育投資が報われる保証はありません。
このような時代に対応する教育とはなにか?が今回のテーマです。それは、時代の変化、働き方の変化と一体です。
(図:平成21年度 文部科学白書より編集部作成)
日本人の半数が107歳まで生きる時代
2017年の流行語大賞で「人生100年時代」という言葉がノミネートされました。「2007年に日本で生まれた人の半数が107歳まで生きる」という予測もあります。人の寿命が70年なら、時間でいえば61万時間です。100年では87万時間です。70歳から先に26万時間、1万日を超える人生が新たに追加されるのです。すごくないですか?
定年後は年金をもらいながら、のんびり趣味を楽しんで余生を過ごそう!
そんな長寿化社会の生き方を解説して世界的ベストセラーとなったのが、ロンドン・ビジネススクールの経営学者リンダ・グラットン教授が書いた『ライフシフト ― 百年時代の人生戦略』(東洋経済新報社, 2016)です。内容を紹介してみましょう。
従来の人生デザインは「3ステージ型」
従来型の人生では「教育→労働→余生」と3つのステージが順を追ってやってきました。
- 教育ステージ 10代での(親からの)教育投資によって「人的資本」を獲得
- 労働ステージ 働くことで人的資本を「経済資本」に転換
- 余生ステージ 引退後、蓄えた経済資本を人生の終盤で消費
という流れです。
「資本」とは価値を生み出す源泉です。
- 「人的資本」人が働いて稼ぐための様々な能力
- 「経済資本」おカネなどの財産
- 「キャリア資本」仕事に活かすことのできる全ての要素
など、私たちはいろいろな資本を持っています。獲得した資本を別の資本に転換しながら、トータルの資本を増やすのがキャリアの設計です。
日本に限らず、欧米でも多くのビジネスパーソン達がこの流れに沿って生きてきました。20歳前後で就職し、退職は60歳、平均寿命が70歳台、と「みんなが同時に同じようなキャリアを選択する時代」でした。社会が正解を提供してくれた時代と言えます。
人生100年時代は「マルチステージ型」へ
今、働き方には新たなパターンが登場しています。
エクスプローラー: 身軽に動き続け、新たな経験を得る探検者
インディペンデント・プロデューサー: 職を選ぶのではなく、自分で職を生み出す独立事業者
ポートフォリオ・ワーカー: 複数の仕事・活動を同時に行う
これからの人生は、さまざまなステージが予測不能に同時進行する「マルチステージ型」へとシフトしていくでしょう。
従来型の人生モデルではレールは一本だけでした。1つの組織内で経験を積み、昇進し、定年を迎える組織内キャリアモデルです。転職してもレールを乗り換えたに過ぎません。一方でマルチステージ型では複線も含みます。
マルチステージ時代の「プロティアン・キャリア」
そして、予測不能な世の中では、長い生涯を通じ、自分自身をアップデートし続ける必要があります。このような働き方を「プロティアン・キャリア(protean career)」といいます。プロティアンとは変幻自在という意味で、ギリシャ神話の「あらゆる物に姿を変えることができる」海の神プロテウスから名付けられました。
従来の発想では主役は組織、所属する会社内でどう評価され、出世していくか、がテーマでした。しかしプロティアン・キャリアでは、主体が個人にシフトします。この概念を提唱したボストン大学のダグラス・ホール教授は、
たとえラットレースに勝ったとしても、君たちは所詮、ねずみのままだ
というフレーズを引用し、組織に依存する働き方ではなく、個人が主役であって、組織はそのための場である、という新たな発想を示しています。
そのためには「何度でも変われる自分」であることが求められるでしょう。教育の役割とは、こうした変化に対応できるストレッチ力を育てることだと私は考えています。
では、変化に対応する教育とは、どのようなものでしょうか? 次のページ” 2. 人生100年時代のキャリアを「社会的資本」で構築する “で詳しくお伝えします。