“変身し続ける100年キャリア”の設計図 by 田中研之輔

“変身し続ける100年キャリア”の設計図 by 田中研之輔

2. 人生100年時代のキャリアを「社会的資本」で構築する

<このページのまとめ>

◆ 従来の日本型キャリアは「学校と会社」
◆ 欧米型キャリア構築で重要な「文化資本+社会的資本」
◆ 人生100年キャリアの核は「社会的資本」
◆ 他人の協力により「行動をレバレッジ」する
◆ 他人に協力して「信頼」を蓄積する

人生100年時代とは、長い生涯を通じ、自分自身をアップデートし続けることが求められる時代です。どのような教育により、この変化に対応すればよいのでしょうか? 

日本型キャリア資本は会社中心

これまでの日本では「良い学校から良い会社へ入り、後は会社におまかせ」というキャリア設計が有効でした。新卒で入社した会社によって一生が大きく決まることが特徴です。

これを「資本の流れ」に分解してみましょう。私たちは長い時間をかけてさまざまな資本を蓄積し、時に転換しながら、キャリアを積み重ねています。

  • 親は子供に「教育投資」をし、(塾・学校)
  • 子が「学歴資本」を獲得し、(最終学歴)
  • 新卒就職して「キャリア資本」が手に入る。(入社先=退職先)

学歴資本とキャリア資本が直結し、一本のレールの上を進んでいくわけです。差が付くのは、レールを進む速さ=出世のスピードくらいでした。

欧米型キャリア資本は文化資本+社会的資本

欧米社会では、キャリア資本が育つ流れはもう少し複雑です。

  • 親は子供に「教育投資」をし、
  • 子が「学歴資本」を獲得し、
  • 仕事を始めて「文化資本」「社会的関係資本」「経済資本」を獲得し、
  • 「キャリア資本」が育っていく。

田中研之輔_資本

新たに、文化資本・社会的資本・経済資本、という資本が登場しました。

「文化資本」(カルチュラル・キャピタル)とは、個人の中での幅広い学び、と考えてください。仕事に必要なスキルはいろいろありますが、専門知識だけではなく、幅広い考え方、振る舞い方なども重要ですよね。これは幼少期の家庭教育から始まっています。学歴も文化資本に位置づけられます。

「社会的資本」(ソーシャル・キャピタル、社会関係資本ともいいます)とは、人とのつながりです。仕事をしてできる人脈や、「この仕事を任せることができる」という評価もそうですね。

文化資本と社会的資本の2つを増やしていくと、結果として「経済資本」(エコノミック・キャピタル)=おカネが増えていきます。おカネを使えば、新たに文化資本や社会的資本を増やすための自己投資をすれば、資本は再循環します。

これら文化資本(個人の能力)・社会的資本(つながりの能力)・経済資本(おカネ)の組み合わせが、最終的に残る「キャリア資本」です。

日本と欧米の差

日本の新卒就活は「会社」単位での「就社」ですが、欧米では、この会社のこの仕事、という「職種別」が基本です。そこで欧米の学生は「将来目指す仕事が○○○だから、そのために必要な経験を積むことができる”仕事”を探して応募する」という逆算を基本に就職活動をします。

そこで、「欧米発のキャリア理論は日本では使えない」という声もありますが、欧米の状況は時間が経ってから日本に入ってくることも多いので、日本の将来像を予測できる面もあります。

キャリア投資の本丸は社会的資本

これらキャリア関連の資本で、最も重要なのは何でしょうか?キャリア学では、「社会的資本」を重視する考え方が有力です。

私たちがなにかチャレンジする時、普通は、

  1. 自分でできる努力をしながら、
  2. 自分一人ではできないことを他人にお願いする

という順序ですよね。

「努力」とはほぼ無限のリソースです。しかも、多くの人は十分な努力をしていないことが多いので、本気の努力を継続すれば、抜きん出ることができます。ただ、一人でできる努力には限界があります。そこで必要になるのが、他人に協力してもらうことです。これが「社会的資本」を活かすということです。

社会的資本とは「レバレッジ」である

ところで、「レバレッジ」という言葉があります。物理学の「テコの原理」を指しますが、小さな力で大きな成果を上げることの喩えにも使われます。経営の世界では「他人のおカネを使って事業を拡大すること」を意味します。サラリーマンが住宅ローンでマイホームを買うのもその1つです。たとえば頭金(自己資金)の5倍のローンを組むなら、5倍のレバレッジをかけて不動産投資をした、というわけです。

社会的資本も、やはり住宅ローンのようなものです。他人の行動を借りることで自分の活動を拡げられるからです。ただし、数字で返す必要のない「信頼」の借金です。会社が銀行からおカネを使って大きくなるように、個人も他人から協力を借り、レバレッジをかけて成長できるのです。


8つの社会関係資本社会的資本

社会的資本は、さらに8個に分類できます。

  1.  ネットワーク (Networks)
  2.  信頼の感情 (Feelings of Trust and Safety)
  3.  互酬性 (Reciprocity)
  4.  参加の姿勢 (Participation)
  5.  積極性・行動力 (Citizen Power / Proactively)
  6.  価値・規範・人生の見通し (Values, Norms, Outlook in Life)
  7.  多様性 (Diversity)
  8.  帰属意識 (sense of belonging)

田中_社会関係資本

全部できる必要はありません。できるものだけ実行できればOKです。幾つか解説しましょう。

帰属意識: 所属先のつながりを活かすことです。法政大学の学生なら、大学で得られるつながりを活かすということです。

互酬性: 「自分だけ得しよう」とする人はダメです。そのうち信頼を失いますよね。他人に協力してもらったら、自分も恩を返して信頼を保ちましょうということです。

私が目にするのは、例えば学生がインターンシップに行った時に、その経験を自分一人のものにしてしまうことはよくあります。「私インターシップに行きました、上手くいきました」で終わってしまう。このタイプは伸びません。でも周囲の学生に経験を伝えていこうとする学生は伸びます。

信頼の感情: 人とのつながりのベースにあるのが、信頼感ではないでしょうか。人は自分のことを信頼してくれる相手と一緒に仕事したいじゃないですか。他人を適切に信頼できる人は成功しやすいです。

ネットワーク: 自分と周りとのつながりを作る、他人どうしをつなぐ、異なるネットワーク間をつなぐ、といった行動です。遠い世界との相手とのつながりは、「弱いつながり」(弱い紐帯)と呼ばれます。転職先などメリットの大きな情報は、社会的つながりが弱い人から入って来がち、というスタンフォード大学の社会学者グラノヴェッター教授の研究が有名です。

では、社会的資本を育てるために、大学ではどのようなことができるのでしょうか? 次のページ3. 100年人生に備える大学生活のトリセツ “で説明します。