妊娠中&出産直後のトライアスロンby 西村知乃

妊娠中&出産直後のトライアスロンby 西村知乃

<このページのまとめ>

  • 妊娠による変化とは、姿勢と骨格のズレ、筋肉の緩み、神経系が鈍る、など
  • 出産前は、神経系を鈍らせないトレーニングが重要
  • 走ってもよいが、心拍数を上げすぎない、こまめに給水する、などに注意
  • 西村さんの場合、妊娠32週までハーフマラソンを継続
  • 出産予定週まで週20時間のトレーニングを維持

― 今回は、妊娠中のトレーニングの詳細をお伝えします。

妊娠と姿勢

 妊娠の経過によって、お腹の赤ちゃんはだんだんと大きく重たくなってゆくので、姿勢も変わっていきます。すると、骨格が変わる、筋肉が緩む、神経系が鈍る、といった影響があり、出産後にも残ります。競技をしない方でも、尿もれ、さらには骨盤臓器脱などを起こすことがあります。その状態のままで産後に、以前と同じようなトレーニングを無理にしてしまうと、ケガをしてしまうこともあります。

 そこで、産前トレーニングの大きな目的は、出産後にスムーズに競技復帰できるように、姿勢に関連する、特に腰回りの筋肉を鍛えていきます。

妊婦の筋力トレーニング 

 鍛えるといっても、主な目的は筋力アップではなく、神経を刺激することです。神経系が鈍ると、出産後、復帰しようとした時に、うまく筋肉にスイッチが入らず、正しい動作ができずに、怪我をするリスクが上がるそうです。そこで妊娠中も神経を刺激して、スイッチを眠らせないようにしておきます。

 筋力アップを目的にしないのは、妊婦さんの腹筋は生ハムのように柔らかくなるので、鍛えてもあまり意味がないとのことです。

 それでも、毎週筋肉痛になりました。今まで、こんなに筋肉を意識することはなくて、今までにない体の使い方をしたせいでしょう。トレーナーさんと1対1なので、苦手な動作があれば違うやり方を教えてくれました。自分の体としっかりと向き合うことができて、毎回たくさんの発見がありました。

妊娠とランニング

 妊娠中も、4週間毎にハーフマラソンを走りました。繰り返しますが、ランニングそのものが胎児に悪影響を及ぼすということは医学的に証明されていません。

 妊婦ランナー向けの情報は、やはり英語で調べる必要がありました。たとえば、”Running While Pregnant: What YOU Need to Know”’  などを参考にしました。

 妊婦のランナーによくあるケガと予防法がまとまっています。やはり腰回りの筋力と柔軟性が重要であるようです。

 注意点として、お母さんが酸欠になると、胎児も酸欠になってしまいます。また水分が不足して血液循環が悪くなると、胎児に十分な栄養が届かなくなります。

 そこで、走る時には、無理をしない(心拍数を上げすぎない)、こまめに給水する、といったことを心がけます。もしも異変を感じたらすぐ止めます。

 ベストタイム:1時間22分、妊娠中のタイムの経過はこの通り。

  • 14週目: 1時間31分
  • 20週目: 1時間34分
  • 24週目: 1時間50分
  • 28週目: 1時間53分32週目: 1時間59分 (=予定日7週前 2018. 5.22)

 20週目以降、急激に落ちていますね。そして32週目の大会で、ゴールしてまもなく、骨盤の異変に気づきました。子宮の重さで骨格がきしんでいる感じで、立ってはいられるけど、歩くのがつらい状態でした。3000mほどゆっくり泳いだら、まともに歩行できるくらいまで楽になりました。

 この時期には、リラキシンというホルモンの影響で骨盤が緩むそうです。赤ちゃんが出てきやすくするために必要なことですが、緩んだ状態で走ると通常の3倍もの負荷が骨盤にかかるそうです。JISSでの補強トレーニング等は、その軽減も目的の1つですが、一気に重たくなった子宮を2時間支え続ける筋力はついていなかったようです。

 以後、ランニングは止めました。海外でも、妊娠30週以降、恥骨痛で走るのをやめたというランナーの体験談があります。 “30 Weeks and the Runs are Over” 

 以後はウォーキングに切り替えて、安全な山道での5時間くらいの山歩きなどもしていました。

妊娠と水泳・自転車

 スイムは全く支障なく泳げます。クイックターンの時だけお腹がつぶれないように気を使いますが、バタフライも可能でした。

 自転車は、ママチャリでの10km以内の移動、ロードバイクでの車両が来ない公園内でのトレーニングなど続けていました。臨月に入るとお腹が急に出て、ロードバイクでは腿がお腹に当たるようになって、膝が開き気味になって、のんびりサイクリングしていました。

運動時間

 運動時間は、強度は低いですが、週20時間ほどを保っていました。妊娠前でも週20時間ほどの練習量が多かったので、時間だけでいえば同じくらいです。

 内訳は、たとえば6月の妊娠37週目では、 スイム週3回、バイク週4時間、ウォーキング週10時間、補強トレーニング週2回でした。

 出産予定日は7月11日だったのですが、その週でも

  • 7月8日(日)自転車ローラー2時間、ウォーキング4.5時間(21㎞)
  • 7月9日(月)スイム1.5時間(4200m)
  • 7月10日(火)ウォーキング2時間(10㎞)体幹トレーニング2時間
  • 7月11日(水)スイム1.5時間(4200m)
  • 7月12日(木)サイクリング1.5時間(35㎞)
  • 7月13日(金)体幹トレーニング1.5時間、マタニティヨガ1時間、スイム1.5時間(4200m)
  • 7月14日(土)サイクリング2時間(50㎞)

 と20時間越えていますね。

 

 この写真はその7月12日のものです。バイクジャージがきつくて着れなくなっていて、Tシャツです。

 7月18日、無事出産できました。

(インタビュー実施: 2019年3月 東京都渋谷区桜丘 株式会社メイクス)

編集部より: スポーツ庁の支援体制

 日本でも女性アスリートを支援する動きが始まっています。国立スポーツ科学センターJISSでは、スポーツ庁などの委託事業として「女性アスリート支援プログラム」を進めています。

 その中の「妊娠期、産前・産後期、子育て期におけるトレーニングプログラム」を西村さんは利用しました。

 このプログラムは、JOC強化指定選手および競技団体強化対象選手が、産後、競技に復帰し国際大会を目指すためのものです。当時西村さんは、競技団体JTU(日本トライアスロン連合)のロングディンスタンストライアスロン女子強化B指定選手。アイアンマン世界選手権への復帰という目的にも一致しました。

 このサイトでは、「ママアスリートへインタビュー」のページから、トップ女性アスリートたちが妊娠期も積極的にトレーニングをしてきた状況がわかります。こうした情報が伝わってゆくことで、少しずつ世の中の認識も変わってゆくのではないでしょうか。