妊娠中&出産直後のトライアスロンby 西村知乃

妊娠中&出産直後のトライアスロンby 西村知乃

<このページのまとめ>

  • 出産後の身体は、骨盤まわりの骨格や筋肉が変わってしまう
  • 子育てで長時間練習もできない
  • まず呼吸法から変えた
  • 身体を操作するスイッチレバーが増えた感覚
  • 体重も増えたのに、復帰レースでベスト更新

産後レース、驚きの変化

 私は、2018年7月の出産後、JISS(国立スポーツ科学センター)の「妊娠期トレーニングサポートプログラム」を受けながらトレーニングを再開し、産後7ヶ月でアイアンマンレースに復帰しました。

 出産で身体が変わり、赤ちゃんもいるので、トレーニング内容はずいぶんと変わりました。たとえば3時間ごとに授乳できるように、3時間を超えるトレーニングをしなくなりました。レースではバイク180 kmを5時間以上かけて走るので、今までは長時間練習をしていたのですが。

 授乳の間隔はだんだん開いてきて、レース2ヶ月前くらいには「4時間バイクに乗って、授乳を挟んでラン」といった練習もできるようにはなりましたが、レース距離のシミュレーションはできず、ぶっつけ本番になります。でもいざ走ってみたら、問題なく走ることができました。

 特に、最後のランの感覚が変わりました。私はこれまでアイアンマンレース(計226km)を、今回ニュージーランド含め9試合に出ています。それまで一番ランが走れていたのは出産前年のカナダで、レース途中から「すごく走れてる!」という感覚が分かりました。私はいつもランでは時計をしないで感覚だけで走っていて、タイムはゴールした後でわかるんですが、3時間18分でした。

 

今回は、「普通に走れているな、3時間半くらいかな?」という感覚で走っていたのですが、ゴールしたら3時間17分とベストを更新していてびっくりしました。しかも2 kg 増えた体重です。

身体操作するスイッチが増えた

 何が理由なのか、正確にはわかりませんが、産後のJISSのトレーニングのおかげで、身体の使い方を変えられたことがあるのかもしれません。劇的にすごく良くなった、という感じではないのですが、体幹を使うとか、呼吸とかのやり方が変わりました。「身体を操作するスイッチレバー」がたくさん増えたような感じです。

 例えばランでは、疲れてくると姿勢が乱れて、体力に任せたキツい走りになってしまうと思います。体幹が保てなくなってしまうんですね。

 それが今では、疲れた後でも意識できるポイントが増えて、姿勢を保ちやすくなっています。ほかにもバイク中の負担をへらすとか、より疲れにくくなっているように思います。

 こうしたトレーニングは、もともと、出産後の身体の変化を補うため必要に迫られて行ったのですが、予想していなかったプラスの効果があったのかもしれません。

出産後トレーニングの始め方

 出産時は3週間ほど神奈川の実家で過ごしていました。身体を動かし始めたのは産後7日目から。母乳100%で育てていて、授乳は私しかできません。すぐに授乳できるように、ウォーキングは家の前で、ジョグは家の前を通る1km周回コースをぐるぐる回っていました。

 少し走ると、骨盤まわりに違和感がありました。出産して身体がちぐはぐになっているのがわかりました。トレーニングは出産前より産後の方がずっと難しくなっていました。

 9月からJISS(国立スポーツ科学センター)の「産後期トレーニングサポートプログラム」を開始しました。週に1度、半日かかるので、JISSの託児室を利用できるのが助かりました。

 最初に産後評価をします。身体組成・骨密度・血液検査での女性ホルモン等のチェック・超音波やMRIでの筋肉や骨のチェックなど、丁寧に診ていただけます。理学療法士さんもいろいろな姿勢を診て、骨盤の傾きなどをチェックしてくれました。本格的なトレーニングは、これら評価で問題ないとわかった後です。

 MRIの診断の結果、恥骨部と仙腸関節が白くなっていて、炎症ができていることがわかりました。妊娠中に走っていて痛くなった部分でした。ほかには、骨格のズレや骨密度が若干低下したなどの変化もありましたが、大きな問題はないとのことで、本格的なトレーニングを再開できました。

身体のスイッチを入れるということ

 競技復帰のために、まず、かみあっていない体を元に戻していきます。とくに骨盤まわりがバラバラになった状態なので、コア(体幹・腹筋背筋系)を鍛え直します。そこで、今までやっていなかった地味な動き作りを進めていきます。バラバラになっちゃったものをつなぎなおして、統一性を取り戻していきます。

 トレーナーさんが1対1で、まずはストレッチから始め、筋トレも入れていきます。その中で、私の「スイッチが入りにくい部位」がわかってきました。「スイッチ」とは意識をしづらい筋肉のことです。たとえば、「お尻を使わないといけないのに足を使っている」といった状態です。

呼吸の重要性

 スイッチが入らない大きな理由は、「腹圧」が入らないせいでした。腹圧とは、お腹に正しく空気を入れられるようになる、ということです。そこで呼吸法から変える必要がありました。

 たとえば、大人が仰向けで寝た状態から足を上げると、腹筋とか筋肉を使っちゃうじゃないですか。でも赤ちゃんは筋力がすごく弱いのに、足を上げ続けていますよね。これ、お腹に空気がちゃんと入っているから、力を使わずに足が上がるんだそうです。「赤ちゃんの動きから動作を学ぶ」というプログラムもあって、そこで教わりました。

 正しい腹式呼吸では、お腹全体を空気で膨らませることで、腹圧をかけます。これがとても難しくて、2ヶ月練習して、ようやく空気が入るようになっていきました。

 腹圧を確認できるベルト、というものがあります。ダンベルとかウエイトトレーニングをやるときに、変なところを使ってウェイトを上げると故障してしまいます。このベルトには前と後ろに2個ずつ突起があって、正しい場所に正しく腹圧がかけられているかを感触で確認できるんです。

 こうして、お腹全体、背中全体にきちんと力を入れられるようにしていきました。すると動きが変わってきました。スイムやバイクの時でも呼吸を意識するようになりました。それまでバイクで呼吸を意識するということは全くなかったんです。全く新しい感覚でした。

姿勢の変化

 筋力トレーニングは、トレーナーさんの指導で、スクワット、デッドリフト、ヒップスラスト、ランジ、TRXやマシンを使ったトレーニングなどを週1回、2時間かけて行います。なかなか正しい姿勢でできませんでした。

 体幹が弱っているのもありますが、出産で姿勢も変わってしまいます。妊娠中、ずっとお腹で赤ちゃんを支えているわけなので、背中もそっていくし、骨盤の配置も変わってしまうわけです。JISSではトレーニング中の写真を撮っていって、姿勢の変化をチェックしていきます。

栄養

 JISSでは、実際の食事内容をもとに、栄養評価までしていただけます。産休に入ってから料理に時間が割けるようになってレパートリーが増えたこともあって、評価はなかなか良かったです。ただカルシウムとビタミンDの不足を指摘されました。骨密度を保つために同時に摂ることが重要です。

 ほかにも授乳期の栄養管理についてアドバイスをいただけて、ほかのママアスリートの話も参考になりました。

 体重は出産後に、今までのオフシーズン期と同じまで戻りました。出産前は、レースに向けて体重を絞っていて、ベスト体重はマイナス2kgでした。出産後は、レース前2ヶ月くらい練習量を増やしていったのですが、体重が落ちなくなりました。授乳していると食欲が抑えられなくなって(笑)、たくさん食べてたせいだと思います。

 だからランはそんなに走れないと思っていたのですが、フタを空けたらベストを更新できたわけです。

栄養

リハビリ期間

 9月―10月は、JISS のサポートを受けながらのリハビリ期間のような形になりました。11月頃から強度を上げていき、本格的に競技力を上げていきました。

(インタビュー実施: 2019年3月 東京都渋谷区桜丘 株式会社メイクス)