日本列島縦断レースの8日間 by 3人のサラリーマン完走者

日本列島縦断レースの8日間 by 3人のサラリーマン完走者

5. 大人の冒険

<このページのまとめ>

◆ 仕事外の目標が、仕事の効率を上がる
◆ 社会的資本が豊かになる
◆ 40代後半からは、「上げる」よりも「落とさない」こと
◆ 日々を積み上げ、夢を実現した
◆ ゴールは全ての苦しさを消す

仕事への影響は?

— お仕事や社会生活との関係についてお伺いします。この日本縦断レースへのチャレンジを始めて、変わったことはありますか?

阿部: 残業が減りました。ちょうど「働き方改革」が言われ始めたタイミングと合ったこともありますが、それ以上に、仕事の効率が格段に上がったからです。
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4年くらい前から山に行き始めると、時間が足りなくなります。夜はジムに行きたい、週末は山に行きたい。そのために無駄なことは一切しないようになりました。

岡田: 私は山に行く前から空手をやっていたので、時間を確保するということは以前から意識していました、しかも通勤に片道2時間半かかります。(注:岡田さんは父子家庭のパパであり、ご家族の介護のお手伝いもされており、家庭を優先せざるを得ない状況にあるそうです)
職場は水曜日が定時退社デーで残業なしで帰れるので、空手やっていた時は水曜に道場に行き、今は走ったりスイミングに行ったり。やはり私は何が優先順位かと言うと、練習なんです。仕事じゃないです。だから会社の飲み会は、出れないですって言ってます。実際、スイミングとか練習の予定を先に入れているので、出れないんです。それが10年以上続いています。
どうやって時間を作り出すのか、が大事です。余計なことはしません。

吉藤: 私も皆さんと同じで、無駄なことをしないで時間を作っています。仕事はちゃんとしてますが、残業とかはほとんどしません。家まで30km弱あって、帰宅ランを週1でやっています。途中「ラーメン二郎」があるので、食べ過ぎて走れなくなると20キロぐらいで終わりますが。あとは、重さ30kg以上のザックを背負って家の周りを走ったり、家で筋トレをしたり。 そういったことを週1ぐらいでやっています。

— 平日は、週の半ばに1日だけ、ポイントを置いて、あとは週末に、というパターンですね。これならバランスを取れそうです。

休養・回復について

— 普段のトレーニングでは、休養と回復についてどう考えていますか?

岡田: 大きな大会前は、2ヶ月ぐらい前から毎週のように決まった鍼灸院に行っています。先生がマラソンの年齢別ランキング日本1位になるようなトップランナーの方で、走るということに関してよくわかっていて、触っただけで「ここだめでしょ?こうでしょ?」ということを教えてくれます。
私は体が硬いので、腸脛靭帯をよく痛めてしまいます。痛い右脚をかばって、左側に痛みが出るということもあるので、大会前にほぐしてもらっています。

阿部: 私はまだ経験が浅いので、トラブルはほとんどないんです。唯一失敗したのは、2017年の「トルデジアン」(Tor des Geants, イタリアの合計330kmの人気の山岳レース)で腸頸靭帯を痛めてリタイアしたぐらいです。原因はケアをしていなかったためで、以後、整体に行くようにしました。

吉藤: 私は特に何もしていなくて、ストレッチとか、ほぐしたりとか、針とかもしていないです。ただ膝を痛めたことがあったので、筋力トレーニングをして補強するようにしました。

加齢の影響は?

— 次に年齢について。みなさん30過ぎから走り始めて、年齢が上がる中で、 自分の体のパフォーマンスを上げるとはどういうことでしょうか?

吉藤: 私は35歳ですが、全く考えてないです。

阿部: 私はまだ38ですが、32歳ぐらいから始めて、今が人生ピークのパフォーマンスです。だから何も問題意識を持っていないんです。この話題は岡田さんでは?

岡田: 私は空手を始めたのが39歳で、当時、私を指導してくれる茶帯・黒帯の人が、自分より若い35歳ぐらいかと思ったら、40代、50代でした。私の体重が90キロぐらいあったころです。年齢よりも鍛え方なんだなと思いました。
ただ私も、45歳ぐらいから、

岡田
去年できていたことが、出来なくなってる・・・

と感じることが出てきました。私はフルコンタクトの空手をしていたので、どうしても打撲など怪我をしてしまうんですが、今までは1週間で治っていた怪我が2週間、3週間かかるとか、年齢を嫌でも実感するようになりました。

いま気を付けているのは、 パフォーマンスを上げるためには、いかに空白を作らないか、です。昔はどれだけ頑張るかを考えていたんですが、今は「今日はダメ」と思ったら、さっとあきらめて他の練習をするとか寝ちゃうとか。つまり「パフォーマンスを上げる」というより「落とさない」という方向をどちらかと言うと重視しています。

これからの目標

— 今後の目標は何ですか?

吉藤: 海外レース、トルデジアン大会とか出てみたいですね。
ふだんの練習では、以前から、自分でコースを計画して、目標時間も決めて、という自己チャレンジは続けてきたので、それはこれからも続けていこうと思います。

岡田: 今年の大会は完走はできましたが、自分で設定した目標を達成できず、すごく悔しかったので、次回は目標クリアしたいと思います。海外レースに興味はあるんですが、おカネとかの優先順位がありますから・・・。

トレイル・ランニングは今は選手としては出ていなくて、ハセツネ(長谷川恒男カップ、日本山岳耐久レース。総距離71km累積標高差)くらい。主に、オリエンテーリングとかロゲイニングとか、地図読み技術を競うものが多いです。

今は山なんですが、この形式の長時間のは正直、そんなに身体によくない意識があります。60過ぎたらトライアスロンとかに移るかもしれません。昔やったことあるし、スピーディーでおもしろいので。身体にも優しいです。あと、もともとやっていたグライダーにも戻るかもしれません。

阿部: 僕は何もないです。ずっと出たかったこれに出れたんで、あとはもう寝て過ごしてもいいです。(笑)
ただ今回は完走が目標だったので、もし次に出ることがあれば、ガチでタイムを狙いたいです。出たい人がたくさんいる中で、もう一度完走目標、というわけにもいかないですよね。もしも私が次回エントリーしていたら、ガチで狙いに来ているなと思っていただければ。

この大会で得たもの

— この大会で得たものは何でしょうか?

阿部: 夢は叶うんだ!ということです。自信がつきました。本当に心の底から、

阿部
オレがんばった!

って思えることはあんまりないんですけど、これはそうでした。

最初に憧れてから5年間、1日も忘れることなく、研究、練習、準備を重ねてきました。一見難しそうに思えるチャレンジでも、積み上げることで実現できた、という経験でした。

岡田: 人から声をかけられることが増えました。私は人の顔とか名前とか一致させるのが苦手なのですが、この活動を通じて、人とのつながりが豊かになっていきました。

もう1つ、「すごいことをするためには、どんなことを、どれくらいやればいいのか」が判断できるようになってきたと思います。これはシニアの空手日本一になった経験も含めてのことです。
それは結局、「自分に向いているかいないか、好きになれるかどうか」だと思います。好きなことだから続けられる。周りからは「こんなキツイことを!」と驚かれますが、ただ自分が好きなことをしているだけ、楽しいことを楽しんでいるだけです。

吉藤: 私は山仲間が増えました。山でタイムトライアルとか自主イベントを企画するようになって、最初は私いれて2人だけだったのが、今はそうそうたるメンバーが何人も出てくれて、これも前回完走してからのことかなと思います。

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週間にわたり山に入り続ける、というのは、レースだからこそできること。レースでもないと仕事も休めませんし。これを経験してから、時間の感覚もかわりました。週末に山に入って12日するのに、同じ時間でも短く感じるようになりました。

阿部: 415 km走るという感覚は、スタート前には想像がつかないんですよね。これに本当に憧れ続けて、スタート地点に立てて。スタート直前に、誰が言い出したのか、出場者全員で

みんな
円陣組もうぜ!
ってなって。

すごく高揚感があって、夢心地というか、浮き足立つというか。

阿部
ああ、僕はこのためにやってきたんだなあ
と思いました。

スタートしたら、11日を確実に過ごす、自分にチャレンジはしない。僕はずっとそう決めてきたんですけど、ただ途中は、

阿部
先長いな・・・
足痛いな・・・
眠いな・・・
と辛いことばっかりでした。
最後ハイになって、30kmぐらい猛ダッシュしてました。そんなにテンションが上がるくらい楽しかったです。そしてゴールしたら、嫌な思いは全部消えちゃうんです。僕はゴールで泣いちゃったんです。

吉藤:そんなことを、かつて体重80kgだった私が実現したわけです。

岡田:私は、最高体重98kgの体脂肪率28%からです。(笑)

(写真提供:倉橋俊行さん)

< 講師紹介 >

 岡田泰三(おかだ たいぞう)
54歳、航空用ガスタービンエンジニア。初の50代での2回連続完走者。
耐久系スポーツの経験は49歳までなし。学生時代と30代はグライダーに熱中し2005年日本滑空選手権優勝チーム監督。40代は空手に熱中2011年新極真会 カラテドリームカップ45~49歳男子重量級優勝。5年前、雑誌記事に刺激を受け山を走り始め、3年目にレース出場し52歳での初完走。2018年大会も完走。
ブログ: https://ameblo.jp/u–k/
Twitter: https://twitter.com/turtle24uk

 阿部公一(あべ こういち)
38歳、国際税務コンサルタント。2018年、初チャレンジで完走。
特別な運動経験はなく、2012年の32歳までは仕事と勉強のみの生活で体脂肪率は20%を超え、ジョギングは1kmも走れなかった。ダイエットのためロードバイクを始め、2013年に書籍で山岳レースの存在を知り、登山とトレイルランニングも始める。2014年からアルプス縦走のトレーニングを重ねて急成長し今に至る。

 吉藤剛(よしふじ ごう) 
35歳、横浜市役所勤務。
中学から社会人まで野球に打ち込むが肩を痛めやめるると体重が80kg近くになり、2010年頃からランニングを始める。2㎞も走れば苦しくて続けられないような状態から急成長、12年頃からトレイルランニングに取り組み、2015年「分水嶺トレイルAコース(ソロ)」優勝。2016年に出場し18位完走。2018年は6位。

※この記事は、2018年10月開催セミナー「日本一過酷な山岳レース完走者トリプルトークショー」(東京・渋谷 株式会社メイクス カンファレンスルーム)の内容を編集部にて再構成してお届けしています。

(構成:ウェルビーイング・ラボ編集部)